2013/08/10

Amazonでの作品取り扱いについて


 さて、急な話ではありますが、ずっと考えていたことがあります。スウィート・ドリームス・プレスは、9月15日にリリースを予定している三富栄治のアルバム『ひかりのたび』からAmazonで作品を販売しないことに決めました。

 Amazonという通販サイトは僕も利用しますし、特に反感を持つものではありません。朝に注文するとその日の夜に届くこともあって、その度に「スゴいもんだなあ」と感心させられます。なにしろ便利だし、言うまでもなく助けられている人は多いでしょう。
 スウィート・ドリームス・プレスの商品も、ディストリビューターの株式会社ブリッジを通して、そのほとんどの作品をAmazonで買えるようにしてきました。お客さんの手に入りやすくするためにはひとつでもチャンネル数は多いほうがいいだろうと考えて、今では毎月、ディストリビューターからの売り上げの3分の1から半分ぐらいがAmazonからのものになりました。そんなに大した額ではないですが、だけど、それがなくなると生活に困るぐらいの額にはなっています。でも、今後スウィート・ドリームス・プレスはAmazonに作品を流すのをやめることにしました。

 それにはいくつかの理由があります。まずひとつ目、ことしの3月に出したGofishの7インチ・シングル「レコード/いと」は、デザイン上の要請があってバーコードを入れなかったので、そのため必然的にAmazonには流れませんでした。すると、個人経営のレコード店からいつも以上に注文が入ったり、しかもその多くの場合とても熱のこもったコメントを書いて紹介してくださったり、また、特典みたいなものはつけなかったにもかかわらず直接レーベルにご予約・ご注文いただいたお客様も多くて、これはAmazonを通さなかったからというよりも(実際、Amazonに流さない旨をこちらから各小売店にアナウンスすることはありませんでした)、もちろん第一にGofishとその音楽の力、もしくは7インチというフォーマットの特色もあるとは思いますが、そのときの手応えや喜びみたいなものを、もう少し突き詰めていきたいなということ。
 レーベルとしては単純にチャンネルのひとつとして考えていたAmazonですが、いつの間にかそのせいで全体のチャンネルの数や幅を減らしていたのではないか。そんなことを「レコード/いと」をリリースした前後から考えていたのでした。

 また、3年前にスフィアン・スティーヴンスと彼が運営するアズマティック・キティ・レコーズがAmazonの過剰なディスカウント販売についての声明を出していたことも頭に残っていました。スフィアンのアルバム『The Age of Adz』がAmazonで発売と同時に極端な廉価で販売される予定になっているらしい(それはもちろんAmazonがその作品を目玉商品のひとつと考えていることなので悪い話だとは思わない人もいるでしょう)。そんな情報がレーベルの耳に入ったことに続けて「安く売れば、それだけ多くの人に聴いてもらえる。多くの人にスフィアンの音楽とその素晴らしいアルバムを紹介できる」と思いつつも「我々のアーティストがつくり上げた作品は一杯のカフェラテより高くたっていいのではないか。彼らがレコードにこめた技術、愛情、時間、そしてプロモーションやディストリビューションにはもっと高い価値を置かれてしかるべきだ」と相反した気持ちにあることを告白して、具体的な(レーベルにとっての)適正価格を示し、できれば他の店や手段で買うことをほのめかすなど、問題提起をした事件です。

 もちろん、こういったディスカウント販売はAmazon側の企業努力の一環でしょうし、レーベル側にしても卸値を大きく下げさせられるなど商品を買いたたかれたわけでもないでしょう。それにしても、昔、CRASSのようなパンク・バンドがレコードに「pay no more than...(〜円以上払うべからず)」なんてステッカーを貼って必要以上に利益を乗せる小売店を牽制した時代から三十数年が経って、さて、今ここにある安さはとても複雑で貪欲なものになってしまいました。ちなみに、スウィート・ドリームス・プレスはそういうのがあまり得意ではありません。

 また、Amazonのリストにない本を集めて紹介するという、ユトレヒトの江口宏志さんらがやっている「nomazon」という仮想ブックショップの試みや、円盤の田口史人さんが自作の小冊子『ホワイトハウス〜オズディスクの全作品〜』の序文で書かれていた以下のような文章も念頭にありました。

「(略)100位まであるチャートだったら101位を聞いてみたいという気持ちだったのです。そして、その101位を示すことは、100位までしか認識されていない世界を常識と捉える人に対して何か一石投じられるのでは、というようなことを考えていたように思います」

 というわけで、なんでもある、なんでも揃っている、自分の知らないものも「この商品を買った人はこんな商品も買っています」とおすすめしてくれる便利なAmazonは僕も認めます。ですが、果たしてスウィート・ドリームス・プレスがいるべきはそこなんだろうか…。言ってみれば単なる個人レーベルですし、もとから脇道のほうに興味がありました。なんでもあるように思われているところこそ、なんでもあるわけじゃなかったりするのでは…。

「自分の知り合いの誰かが音楽をつくっている。そこが最高だったの」 ニキ・マックルーア(『Sweet Dreams』第2号より)

「好みとちがう、望みとちがう、面白いじゃない、面白いじゃない」(テニスコーツ「違相」より)

 もちろん、できればスウィート・ドリームス・プレスの立場に近い個人経営の小売店舗、苦境に立たされているレコード店で買ってほしいという思いもありますし、これを機にレーベルのメイル・オーダーであれバンドの物販テーブルからであれ、直接買ってもらえると非常に助かるという苦しい台所事情もあります。とにかく、直接買っていただいたりお問い合わせいただいたりしたほうが気が楽です。それも今回Amazonでの取り扱いを終了する大きな引き金のひとつでした。
 それにAmazonじゃなくたって、少し検索に時間をかけて吟味し、あと余分に数クリックするだけで同じものを手に入れることができるのです。それはスウィート・ドリームス・プレスのメイル・オーダーでもいいし、あなたの知らない他のレコード店のオンラインストアでも可能です。また、どこかお出かけのついでにスウィート・ドリームス・プレスの取り扱い店(こちらにリストがあります)に寄って「〜のCDありますか?」と訊いたり、そのぐらいの多少の手間があるというのも悪いことではないでしょう。むしろ、その手間が僕らや僕らの身の回りを動かしているのだということを忘れないためにも。

 なお、過去にリリースして既にAmazonで取り扱っていただいている旧譜、バックナンバーについても段階的に掲載データの削除を探っていく予定です。その際にはあらためてお知らせいたします。また、8月中を目標にスウィート・ドリームス・プレスのホームページからウェブストアを独立させてリニューアルしますので、その開店にもご期待いただければ幸いです。メイルオーダー限定のアイテムやお土産なども用意していますので、どうぞお楽しみに。

 それでは、今後ともスウィート・ドリームス・プレスをよろしくお願いします。ひとつの試み、ささやかな悪あがきとして、少しでも気に留めていただければこれ幸い、です。