2011/09/27

Introducing Rachael Dadd (その1)

パリでのライブの1シーンより

レイチェル・ダッドと初めて会ったのは、タラ・ジェイン・オニールの2008年の来日ツアーのとき、場所は名古屋のKDハポンでのことだったと思う。確か、そのときの共演者のセラフィナ・スティアというロンドンから来た女性シンガー・ソングライターとレイチェルが知り合いで、パートナーのICHIくんと一緒に見に来てくれたんじゃなかったかな。

とにかく第一印象はえらい可愛らしい人だなあということで、それだけでちょっと感心してしまった(?)のを覚えている。みんなに分け隔てなくニコニコと笑いかけて、それにあのカタコトの日本語でしょう。みんながレイチェルを見て、いろんな点で彼女の魅力の虜になるのも分かる気がしたものだ。そのときはまだ彼女のライブを見たことはなかったけれど、尊敬するレーベル、エンジェルズ・エッグから作品を出していたこと(そのレーベルについては『map』第2号で取り上げているので、機会があったら読んでみてほしいです)、最初の来日から川手直人さんと各地隅々を巡るような長いツアーに乗り出していたこと、音楽だけじゃなくて手芸のワークショップも開催していたことなど、彼女については何点も気になる点があって、いつかライブを見てみたいなあと思っていたのだった。もちろん、そのライブの素晴らしさについて、それまでにいろんな良い噂が耳に入ってきていたこともある。

それから数年経って、ある日ICHIくんから連絡をもらい、それはレイチェルの新作レコードを出してもらえないかとの打診だったのだけど、もちろん、ふたつ返事でお引き受けしたわけです。エンジェルズ・エッグから引き継がせてもらうというのも光栄なことだし、とにかくすごく嬉しかったな、あのときは。

というわけでスウィート・ドリームス・プレスにニュー・カマーが加わりました。紹介しましょう。レイチェル・ダッドです(拍手)。彼女のニュー・アルバム『バイト・ザ・マウンテン』を、下で紹介しているテニスコーツ&ジャド・フェアの『エンジョイ・ユア・ライフ』と同じく10月15日にリリースすることになりました。善き人間であること、手を動かすこと、人に笑いかけること、きちんと生きること、そして嬉しく歌うこと……。ひとり、ここにまたラッダイト主義者が増えました(笑)。

まずは少し古いですが、昨年おこなわれた彼女のインタビュー記事(原文はこちら)を見つけたので、ここに訳出してご挨拶がわりとします。それでは、イギリスが生んだクラフト派シンガーソングライターの明星、レイチェル・ダッドに祝福を!

インタビュー:レイチェル・ダッド

『Drunkenwerewolf』第11号(2010年3月発行)より。

過去1年半の間、旅回りのシンガー・ソングライターで、ホエールボーン・ポーリーザ・ハンドの一員であるレイチェル・ダッドはフォーク・シーンにちょっとした騒動を引き起こしてきた。ブリテン島最高の人たちと共演し、自身の音楽を日本で広めつつ、彼女は同時に数枚のとても美しいソロ・レコードをリリースする。ペースは落ちることなく、仮に『After the Ant Fight』と題された2010年のアルバムに続き、アレッシーズ・アークアデレイズ・ケープファースト・エイド・キットらとのギグもこれから予定されているようだ。

レイチェルの歌には自分の日常生活を歌ったものが多いが、彼女は大人になってから長い時間を旅することに費やしてきた。ウィンチェスターからロンドンへ、ロンドンからブリストルへ、そしてまったく環境の異なる日本へ。

■2003年にブリストルへ引っ越した動機は何だったんですか?
□友達がいたこと、空き部屋があったこと、それからブリストルの音楽とアート自体もその理由のひとつでした。来る前にもブリストルはフレンドリーな町だと聞いてたけれど、確かにロンドンよりもずっと受け入れられている気がしますね。

■あなたは港のフェリーで働いていましたね。この町で、他にあなたにとって特別な場所はありますか?
□レイの森(Leigh Woods)と、その峡谷からの脱出ルートが大好きです。今日も自転車でピルまで行きました。それにグロスター通りも大好き。あそこもちょっと(商業センターからの)脱出ルートみたいな感じですね。独立店舗はどこも好きだし、あっ、セント・ワーバーグ、ザ・ファーム(パブ)、セルフ・ビルド・プロジェクトも。あの界隈は、フェリーの仲間とちょっと住んでたことがあるんです。すごくラブリーな3カ月でした!

■あなたはこの1年半の間、多くの時間を日本で過ごされてきましたね。楽しまれましたか? そもそも、どうして日本に行くことにしたんですか?
□私、日本が大好きです。あそこで出会った人たちがどれだけ素晴らしいか。彼らはすごく気を使ってくれるし、誠実で、フレンドリーで、慎み深く、興味をそそられ、好奇心旺盛な人たちでした。未知の文化とルールを学ぶことは、すごくよい経験にもなりましたね。ご飯も様々な種類があってとてもおいしいし、山々もすごく美しい、特に秋はね。音楽をつくろうと日本に行ったんですけど、それは私のレコードを出している唯一のレーベルがある国だったからなんです。それに、ひとりで冒険に乗り出すときじゃないかと思いました。まったく勝手の違う場所をひとりでさまようのも楽しいんじゃないかと。人はみなとても温かくて、どこでもすごく歓迎されたので、まったく大変なことはなかったんですけれど。

■今まで訪れたことがない国に行きたいですか?
□日本からロシアまで汽車で旅行したいですね。それに、スカンジナビアに行きたいです。寒冷な気候が好きなので。

■経験やソングライティングといった観点からも、あなたにとって旅することは重要なのでしょうか? 旅が一番大きな影響源ですか?
□いいえ、一番の影響というほどではありません。ソングライティングにとっても、そこまで重要だとは考えていないです。ただ、私は自分にとって身近にあるものを書く傾向があるので、今いる場所よりも元いた場所のことの方が曲になりますね。ささやかで、どこでも起こるようなこと。でも、日本でひとりぼっちになった経験、内省の時間は確かに自分の曲に影響を及ぼしました。いろんな感情が湧き起こったんです。

■ほかにどういうことが作曲のヒントになりますか?
□デヴィッド・アッテンボロー映画の映像を流したりしてるダサいトランス・パーティーのことについての曲を書き上げたところなんですが、その映画に出てくる泳ぐ猿と象がすごく感動的だったんです。すべてのことが私にとっての影響源になるんです。でも、まったく曲が書けなくなる時期もあります。どちらかというとひとりで寂しくしてるときのほうが曲が書けますね。今はエイイチが日本に帰ってるから、自分に活を入れてるところなんです。


「Window」:新作『バイト・ザ・マウンテン』収録曲。
冒頭に登場する男性は、ザ・ハンドの相棒であるコラ奏者のウィグ・スミス。

ソロ・パフォーマーであることからも、レイチェルはとにかくライブに定評がある。彼女は熟練した音楽家であり、『The World Outside is in a Cupboard』『Songs from the Crypt』そして『Summer/Autumn Recordings』といった既発アルバムでも、ウクレレやピアノといった伝統的な楽器に真摯にぶつかっていった。しかし、彼女のクリエイティビティはそれだけではない。

■私が最後にあなたのライヴを見たのは、2008年に開催されたブリストルのハーバー・フェスティバルでのことでした。ひとりの男性があなたの音楽に併せて、噴水のほうまで踊っていったのを覚えていますか? あのとき以外にも誰かが飛び入りしたなんてこと、あります?
□みんなが踊ってくれるのは最高の気分ですね。あまりないことですが、今までに2~3人はいたように思います(おかしな人ではなかったけど)。でも、ブリストルのミュージシャンや、私のライブによく来る人なら知ってるようにジェフも踊るのが好きですし、何回か子どもたちが踊ってくれたこともありました。あれは最高でした。すごく誠実な批評ともいえるでしょうね。

■あれは本当にラブリーな演奏でした。では、今までのライブで、他に普通じゃない経験をしたことはあります?
□日本では電車の中で演奏したり、緑に囲まれた庭園で演奏したこともありましたね。


この笑顔! 新作『バイト・ザ・マウンテン』のアートワーク・セッションからのひとコマ

マテリアル・アートはレイチェルの美術履歴の中でも高く位置づけられていて、彼女はずっとアート好きの財布の紐を緩ませてしまうようなトート・バッグやレコードのジャケット、バッヂやその他の商品をデザインし創作してきた。また、彼女はこれからリリースされるミニ・アルバム『Moth in the Motor』のジャケットをファンに自分でつくってもらうコンペティションも開催している。

■『Moth in the Motor』は批評家やファンから大きな注目を浴びていますが、あのEPであなたがやりたかったことは何でしたか?
□EPというより、自分の中ではミニ・アルバムなんですけど、6曲入っていて、可能な限り本物のピアノで演奏したかったのと、ライブでも同じようにできる曲がやりたかったんです。2月いっぱいずっとツアーして、みんなにはこのサイト(こちら)にアクセスして、寄せられたアートワークを見たり、お気に入りがあったら買ったりして欲しいですね。

■そのジャケット・コンペティションには既に美しい作品が届いていますね。あなたのお気に入りはどれですか?
□たくさんあります。特に日本からの作品はとてもラブリーですね。それ以外にはジェイン・ステーブルズの作品が際立っていました。彼女は私の曲の中にある政治的/社会的メッセージについて考えてくれていますし、とても美しく描けています。


左がパートナーのエイイチ(=ICHI)。彼のワンマンバンド・パフォーマンスもぜひ!

彼女が達成してきたすべてのこと、彼女が備えている力、日本のレーベル、エンジェルズ・エッグに彼女が見出している安心感にかかわらず、ご想像どおり、将来の彼女がどうなっているか、それは見当もつかないし、一方向に運命付けられているとも言えないようだ。

■2010年にはアルバムをリリースする予定があるとか。どんなタイトルになるんでしょうか?
□ええと、多分『After the Ant Fight』でしょうか。この質問は半年後に聞いてくださいよ!

■では『After the Ant Fight』とこれまでの作品との違いは?
□今までは庭とか教会とか寝室で録音してきたのですが、新作は私にとっては初めてのスタジオ録音作品なんです。今はほかにもいろいろ変な場所で録音し続けていきたいなと思っています。

■ケイト・ステイブルズとやっているホエールボーン・ポーリーの『Taproot & Sill』に続く作品も録音しているのでしょうか? みんな待ちわびていますよ!
□私もホエールボーン・ポーリーのアルバムをつくりたいと思っています。ずっと相談はしてるんですが、2011年までは無理のようで。すごい先の話になっちゃいますが。

■来年のあなたは何をしているんでしょうね。どの国にいるんでしょう?
□ケイトとの録音でフランスかもしれませんね。もしくはまだ日本にいることもあり得ます。

■最後に、OLOウォームズのジェイムスからの質問です。結婚式はいつで、自分もエイイチと結婚できるでしょうか、ですって。
□まずはエイイチと相談してみますね。きっと私同様、エイイチもこの質問を見て爆笑しちゃうんじゃないかしら!