2011/07/12

ライアン・フランチェスコーニ氏の雨の素



本来は梅雨のうちにアップしたかったんですが、こう早く明けちゃったら仕方がない。この猛烈な暑さの中ではありますが、少しでも涼を感じていただければ、と。お題はライアン・フランチェスコーニ氏の雨の素。スウィート・ドリームス・プレス随一のヒット作品(?)って実は氏の『パラブルズ~たとえばなし』だったりするのですが、ちなみにジャケットは……。


こういう、いろんなカードとCDが入っていて……


それをまとめて……


パタンパタンと折っていくとこんなになって


で、こうやって留めて裏返すと


はい、できあがり! と、こんな仕様でして…。

そして肝心の音楽は


こんなで


さらに、こんな感じです。思い出していただけたでしょうか。

で、昨年10月の来日ソロ・ツアー以降も、自身がバッキングを務めるジョアンナ・ニューサムの北米~ヨーロッパ・ツアーでソロ・セットを披露したり、パーカッションのティモシー・キグリー&バイオリンのミラバイ・パート(彼女も最近のジョアンナ・ニューサム・バンドの一員)とのトリオ編成での演奏も始めたり、かと思えば今年2月のヨーロッパ・ソロ・ツアーではジェイムス・ブラックショーウドゥン・ワンドらとステージをシェア。また、3月には再びジョアンナ・ニューサムのオーストラリア・ツアー、その後、短いアメリカ西海岸ソロ・ツアーをはさんで今月末からまたまたジョアンナ・ニューサムでヨーロッパ行き等々、精力的にライヴ・パフォーマンスをこなしているフランチェスコーニ氏、今ではすっかりギター・プレイヤーとしてのキャリアを邁進する心強い存在なのです。

そんな彼の音楽的バックグラウンドを知ってもらうためにも、去年来日していたときに最近のお気に入りレコードを教えてもらっていたのですが、なかなかご紹介するタイミングがつかめないままズルズルと。……スミマセン。ともあれ、そのときに彼が一枚一枚、律儀にiPhoneの画面をスクリーンショットして送ってくれたのが以下のレコードたちでした。『パラブルズ~たとえばなし』や、来日記念盤としてリリースしたウード奏者のケーン・マティスとの共作盤『ソングス・フロム・ザ・シーダー・ハウス』の素として、これらのレコードを探ってみるのも一興(一驚)かと。では、以下で紹介していきましょう。

Erkan Oğur & İsmail Hakkı Demircioğlu
Anadolu Beşik











まずはライアン・フランチェスコーニの大きなインスパイア源のひとつであるトルコ音楽から。Erkan Oğurは1954年生まれのトルコ人演奏家で、フレットレス・ギターのパイオニアのひとり。作曲家としても知られ、トルコのフォーク音楽の要素を取り入れたクラシック作品で多くのミュージシャンに影響を与えているそうです。世界中を演奏して回り、コムズ(中央アジアの弦楽器)やバーラマ(東地中海沿岸~近東の弦楽器)のマスターでもあるのだとか。また、一方のİsmail Hakkı Demircioğluは1957年生まれ。幼少時より演奏をはじめ、音楽院でトルコ音楽を学びました。






Glenn Gould
Back: Goldberg Variations












次はクラシック音楽。ご存じのようにグレン・グールドは1932年生まれのカナダ人ピアニスト。1956年、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」で衝撃的なデビューを果たし、一躍世界的ピアニストとしての地位を確立しました。1964年にコンサート活動を停止してからは、録音~放送媒体での演奏だけを音楽活動の場としたことで知られています。1981年に「ゴルトベルク変奏曲」を再録音しますが(ここでライアン・フランチェスコーニが挙げている方。デビュー時の音源と聞き比べるのも面白いと思います)、翌年、惜しまれつつ50歳で死亡してしまいました。






Nedyalko Nedyalkov
Balkan Path











Maistori
Grupa Maistori











お次はトルコのご近所さん、ブルガリア音楽です。ネディアルコ・ネディアルコフは1970年、ブルガリア生まれのカヴァル(トルコ、ブルガリアなどで演奏されるフルートの一種)演奏家。若くしてブルガリアン・フォーク音楽界の希望の星と言われ、90年代半ばにはブルガリア国営ラジオ局フォーク・オーケストラのソロイストを務め、ブルガリア国内だけでなく、広く世界中を演奏して回ってきました。なお、マイストリとは、ネディアルコが2001~2003年まで一緒に北米をツアーしたバンドのこと。そのときの演奏がアルバム『Grupa Maistori』にまとめられています。






David Martinez
David Martinez: Guitar Recital












ダビド・マルチネスはスペイン・グラナダ出身のギター奏者。本作はナクソスの「期待の新進演奏家リサイタル・シリーズ」からの1枚です。彼もまたこのアルバムでバッハを取り上げていますが、そういうところもフランチェスコーニ氏のお気に召したのでしょうか。レーベルの紹介文によると「ダビド・マルチネスのリサイタル・アルバムは、絶妙の語り口で聞かせます」とのこと。ナクソスのCDはお手ごろ価格ですので、僕のようなクラシック・ギター入門者も手に取りやすいのではないかと思われます。






Jakob Lindberg
English Lute Duets












ヤコブ・リンドベルイは1952年、スウェーデン・ストックホルム出身のリュート奏者。リュートというのは、ウィキペディアによると中世~バロック期にかけてヨーロッパで用いられた撥弦楽器とのこと。ヤコブさんはストックホルム大学を卒業後、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックに留学、ダイアナ・ボウルトンに師事しリュートを究めたそうです。特にバッハのリュート独奏曲の録音は高い評価を得ているのだとか。ちなみに弟のクリスティアンは、世界でも稀有なフルタイムのソロ・トロンボーン奏者として知られています。






Fleet Foxes
Fleet Foxes












ここで一転、アメリカのインディー・ロックのヒット作が1枚入ります。ボーカル/ギターのロビン・ペックノールド率いるシアトルの人気バンドのファースト・アルバムです。美しいコーラス・ワークとバロック風ポップ・アンサンブルで一躍、サブ・ポップを代表する人気バンドのひとつになったフリート・フォクシーズ。ボブ・ディラン~ニール・ヤング~CSN&Yなどの70年代アメリカン・ロックとトラッド・フォークの要素を両方感じさせる重厚なハーモニーが人気の秘密、でしょうか。ソロとしても活動するロビン・ペックノールドは、度々、ジョアンナ・ニューサムやライアン・フランチェスコーニとステージをともにしていることでも知られています。ライアンとは個人的仲良しさんのひとり、でもあるのでしょう。






Kane Mathis and Rusty Knorr
Kora and Percussion











ケーン・マティスはライアン・フランチェスコーニと『ソングス・フロム・ザ・シーダー・ハウス』を共作しているウード奏者。ライアンのシアトル時代のルームメイトでもあります。ここで彼はコラを弾き、ラスティ・ノールというパーカッショニストと演奏しています。元々、こういったプログレッシブな民族音楽畑で活躍してきたライアン・フランチェスコーニだけに、インディー・ロックの枠にとらわれない幅広い交流が興味を惹かれます、ね。






Ballake Cissoko
Kora Music from Mali












続けてコラの本場、西アフリカ、マリ共和国の音楽です。高名なグリオだったジェリマディ・シソコの息子としても有名な1968年生まれのコラ奏者。1981年にトゥマニ・ジャバテとのデュオでデビューして以来、タジ・マハールとの仕事など、さまざまなアーティストとの共演経験で知られる名手です。





Farmers Market
Surfin' USSR











ファーマーズ・マーケットというユーモラスな名前のこのバンドは、あのマイケル・ブレッカーも惚れ込んでいるというノルウェーの超絶面白バンドのこと。ひと言で言えば、ブルガリアン音楽とジャズ、ポップ、ロックの諧謔ミクスチャーとか何とか、そのように紹介されるのでしょうが、本作がマイク・パットンのイペキャック・レコーズからリリースされていることを考えれば彼らがタダモノではないことが分かるでしょう。





Vetiver
To Find Me Gone











ここでまたアメリカのインディー・ロックが入ります。元々レイモンド・ブレイクというバンドにいたアンディ・キャビック率いるサンフランシスコのフォーク・ロック・バンド、ヴェティヴァーです。デヴェンドラ・バンハートやジョアンナ・ニューサムとの親交もあって、いわゆるフリー・フォークの重要バンドのひとつと目されている彼らですが、さらに、2007年にヴァシュティ・バニヤンと北米ツアーに臨むなどして頭角を表わしました。この『To Fine Me Gone』は2006年発表のセカンド・アルバム。プロデューサーにパーニス・ブラザーズのトム・モナハンを起用、盟友デヴェンドラ・バンハートも参加しています。ちなみにスウィート・ドリームス編集室でもよくかかる1枚です。







Weiss: Sonatas for Lute, Vol 2
Roberto Barto












シルヴィウス・レオポルト・ヴァイスはドイツ後期バロック音楽の作曲家・リュート奏者、トレモロ奏法の発明者としても知られ、ヨハン・セバスティアン・バッハとも親交を結び、ふたりは同じ年に亡くなったそうです。本作はそのリュート・ソナタをロバート・バートが弾く人気シリーズからの第2集。リュートの典雅な響きと技巧が、ライアン・フランチェスコーニ氏のギター演奏に計り知れないほどの影響を与えていることが伝わるでしょう。



では、最後にライアンの最新インタビュー(原文はこちら)からの一節をここで引用しておきます。自分の音楽をどのように紹介して欲しいかという質問に答えてのものです。

「最近はよくコラと比較されるようになってきたね。実際、僕の音楽には当てはまらない部分もあるんだけど、褒め言葉として受け取っているよ。それに例えばマイケル・ヘッジズみたいな人と比較されるよりも、僕の音楽はずっと深くトルコのスーフィー音楽と結びついているんだけどね。でも、悪意がない限りは、どのように僕の音楽のことを言われようが気にしないよ。奇妙なことに、意地悪な批評のレビューも幾つかあったけどね。僕なんか全然攻撃的な人間じゃないのに、何だか妙な気持ちだよ」

さて、現在、ライアン・フランチェスコーニ氏は2枚のソロ・アルバムを制作中とのこと。今しばらく首を長くして待ちましょう。幸いなことに次のアルバムもスウィート・ドリームス・プレスからリリースできそうです。となるとまた来日ツアーもかな? ともあれ、どちらも乞うご期待ということで。