2011/06/17

頭痛薬にまつわる少し頭の痛い話 その2


(……こちらのエントリーから続く)さて、話をタイレノールに戻そう。その「アウチ!」なるキャンペーンについて書かれた記事を2本訳出してみた。まず1本目は『The Portland Mercury』のもの(原文はこちら)。まず読んで伝わるのは、インディー・カルチャーに広告業界が触手を伸ばしたことへの危機感、嫌悪感といったもの。「広告業界によるインディー層の狩猟解禁」と同紙は報じているが、さて。

では、最初のインタビューを読んでみよう。タイトルはイギリスのコメディ映画『Once More, with Feeling』(1960年)をもじったもの。「感じる力を取り戻す」ということだろうか。あ、痛っ! 


ワンス・モア・ウィズ・フィーリング アウチ! 
文●エズラ・エース・カラフ 
あの広告を読者の皆さんは当然目にされたことと思う。インディー・ロックの人気雑誌に軒並み掲載されはじめた「アウチ!」とかいうフルページ広告のことだ。愛らしいロン・リージー・ジュニアの人形、アメリカン・アナログ・セット/ホワイト・マジックの無料スプリットCD。それらは全てウェブサイトで紹介されていて、そこには奇妙な指針表明が添えられている。「アウチは、タイレノールを製造する良識ある人間が、ポジティブなものをクリエイトしようと日々頭を悩ませている人たちを紹介するプログラムです」。 
タイレノール? 頭の悩み? アメリカン・アナログ・セット? この広告キャンペーンのアイデアが、タイレノールを生活苦のヒップスターたちの二日酔いの薬として売りこむことから出てきたのなら、それは大きな見込み違いだと言わざるを得ない。なぜならタイレノールの有効成分であるアセトアミノフェンは、アルコールの過剰摂取で弱っている肝臓をさらに傷つけるだろうから。でも、肝不全で死ぬよりも「アウチ!」のほうがタチが悪いところもある。それはつまり「アウチ!」が広告業界によるインディー層の狩猟解禁を意味していたということ。しかも「アウチ!」はマーケティングという氷山の単なる一角に過ぎないのである。 
簡単に言うと「アウチ!」は、直接あなた、ミスター&ミセス、そしてヒップスターを標的にした猛烈なマーケティングの始まりでもある。つまり、広告業界のレーダーに引っかかりもしなかったトレンドセッターたちの怠惰なサブカルチャーなどは、もはや存在できなくなるということ。売れ線音楽のライセンシー(編注:ライセンスを与える者。つまり新ネタ提供者)としてのインディー・アーティストの急増は、最終的に私たちが買うものすべてのBGMに落ち着いてしまった。ビール=モデスト・マウス、車=リチャード・バックナー、マックグリドル=ザ・シンズ、靴=ヤー・ヤー・ヤーズのカレン・O……。 
こうした広告キャンペーンは数多くあるが、「アウチ!」ほど複雑なものは珍しい。このプロモーションの無分別な全容は、そのウェブサイトを見れば明らかだが、昨秋以来一度のアップデートもないまま閉鎖してしまったということは、誰かがマーケティング粛清の名の下にプラグを抜いた証拠かもしれない。ほぼ2カ月間、メールと電話での問い合わせの末、結局、タイレノール宣伝部、その販売元のジョンソン・エンド・ジョンソンはどちらも私のインタビューに応じてくれなかった。事前に私の質問をチェックするところまではこぎつけそうだったのに、しかし未だにやんわりと断られ続けている。取材が有効だとももはや思えないが、「こちら側」の富裕層に対してマーケティングの門を開けた先駆けとして「アウチ!」が記憶に残るだろうことは興味深くもある。それとも、インディーもののサンプラーCDと可愛いプラスチック人形の残骸を後に残し、タイレノールの単なる一失敗キャンペーンで終わったのかもしれないが。
ちなみに「ヒップスター」なる言葉については、チーム・キャシーがまとめているテキストをまずは読んでみてほしい。題して「死後のヒップスター」。その1から、その2その3その4、さらにその5その6と続く労作だ。さらには、彼らが最近リリースした『FINALLY... FINALLY... FINALLY... ミシェル・ティーとDIYカルチャー』というジン(リルマグで買えるよ)のパート3にも、「ヒップスターとマクスウィーニーズ・スクール」として記事がまとめられているので、こちらも必読。

ちなみに僕自身は、広告については悪とも善とも思っていない。もちろん、大資本が金にあかせて表紙と引き換えに……なんて真っ平ごめんだけど、幸か不幸かそんな目にあったことはないし、あったとしても断ればいいだけだ。例えば『スウィート・ドリームス』にあと数ページ広告が入れば、多少は定価を下げられるだろうし、広告を募るのも新しい信頼関係のひとつのきっかけになるだろう。何よりそれぞれの特色が出た広告ページは眺めるだけで楽しいしね。例えば、どんなショボいファンジンにも掲載されていたディスコードの広告(半分から左にシンシア・コノリーやグレン・E・フリードマンが撮った写真、右側に新リリースがリストアップされたシンプルなやつ)など、見るたび「お、さすが! こんなところにまで」なんて思ったりしたものだし、スリル・ジョッキーみたいに時代を経るごとにロゴマークが変わっていくのを見つけるのも楽しいものだった。若きジンスターたちにとって、その制作費をカバーするために雑誌に載ったレーベルの連絡先一覧(当時はレビュー・ページの続きにレーベルの連絡先一覧が掲載されていたものだった。つまりこういうやり取りを雑誌側も促していたわけだ)を頼りに電話を1本かけたり、ハガキを1枚書くことなんて当たり前の光景だったに違いない。もちろん、そうしたくなるようなレーベルが幾つもあったということでもあるし、それを気軽にさせるような風土もあったということだろう。そして、そういうやり取りが網の目のような交わっていったところに、多分何か血の通うものが生まれたのだろう。

それに、どのレーベルがどういう雑誌にどういう広告を出しているのかということは、そのレーベルや広告を掲載する雑誌の態度を測る一種のバロメーターでもあった。もちろんこれは大きな世界の話じゃなくて、もっと身近な小さな世界の話。タイレノールの話から随分脱線してしまったが、しかし、こういった広告キャンペーンに対してメディアもこうして反応しているところは健全だと思う。たった6~7年前とはいえ、もう既に音楽雑誌への広告出稿がどうのなんて話自体、偉く時代遅れで牧歌的な話なんだろうけど。

で、そうそう。脱線ついでに、先述した『FINALLY... FINALLY... FINALLY...』のパート1に「『ヴァレンシア・ストリート』+25冊:ミシェル・ティーからひろがる読書文化」というページがあって、そのうちの「一九七〇年うまれの一九九〇年代人」という項目でスウィート・ドリームスを挙げていただいています。僕が「日本のティー世代を代表」しているかどうかはともかく(笑)、1970年生まれなのは確かなこと(松江市の日本赤十字病院で生まれてるはず)。あと、文中では僕が1990年代中ごろ東京のレコードショップで働いていたことになっているが、本当は横浜の馬車道。でも、東京のレコードショップのほうが響きがいいし。うん。そういうことにしよう。ということも含めて、こうやって紹介してもらえてとても光栄に思っています。ちなみに、最近嬉しかったことの2トップは新しい音楽雑誌『音盤時代』に原稿を書かせてもらえたこと(浜田編集長のインタビューがこちらにあります。これも必読)、それからキャシーのジンでこうやってスウィート・ドリームスに触れてもらえたこと。ぜひ、機会があれば手に取ってみてください。

また、さらに追記するなら、チーム・キャシーのダーティさんが訳したミシェル・ティーの『ヴァレンシア・ストリート』も太田出版より絶賛発売中(ツアーが終わったら僕も取りかかる予定)。そういえば、月曜日に来日しちゃうタラ・ジェイン・オニールは、つい先日レイチェル・カーンズ(元ザ・ニード、キッキング・ジャイアントほか)と一緒にアナ・ジョイ・スプリンガーザ・ブラッツサイファー・イン・ザ・スノーほか)の新刊『The Vicious Red Relic, Love』に併せてツアーをしていたのでした。そのツアーの初日、サンディエゴではアイリーン・マイルズ(についてはこちらを)も出演したらしいし、きっと大いに盛り上がったんだろうなと思いつつ。ちなみにアナ・ジョイ・スプリンガーについては『FINALLY...FINALLY...FINALLY...』の中にも登場しています。チーム・キャシー曰く「こうみてみると、チームキャシーの関心圏内において、アナ・ジョイ・スプリンガーはおそろしいほどのエリートコースをたどっていることがわかる。なぜこれまで追ってこなかったのか不思議なくらいだが……」とのこと。このアナ・ジョイ・スプリンガーの著作も気になっているので、いつか紹介できたらと思っています。

と、その3に続く……。