2016/08/21

Bonnie 'Prince' Billy & Bitchin Bajas Japan Tour 2016


 今から12年前、2004年に日本にやってきたボニー・プリンス・ビリーはツアーになるとヨレヨレのデニムのオーバーオールを身にまとい、ステージ前には頬にチークを入れてピッチフォーク持ったヒルビリーへと見事な変形を遂げた。部屋着にはとある商店街で購入した遠赤外線のあったか下着で全身ボディコンシャス、その作品量の多さに驚くインタビュアーには「だってそれが俺の仕事だから」と何食わぬ顔、そして、ツアーに関わる誰もが損をすることのないように気を配る心やさしい一面も。

 さて、レディース&ジェントルメン、ケンタッキー州ルイヴィルが生んだ当代きっての変わり者にしてアメリカ随一のシンガー・ソングライター、ウィル・オールダムの再来日がようやく、ようやく決定しました。しかも、今回は特別に新作アルバムのコラボレーター、シカゴの新鋭サイケデリック/アンビエント/スペース・ロック/ドローン/ニューエイジ・トリオとして大きな注目を集めるビッチン・バハスの3人組を従えて、メスメライズで明度の高い、とろけるようなライブ・パフォーマンスを披露する予定です。それぞれのソロ・セットあり、はたまた両者のロングセット一発勝負もあり、5晩5様の双頭ツアーにどうぞご期待ください。

 ボニー・プリンス・ビリーとビッチン・バハス、BPBとBBのビッグでベストなジャパン・ツアーがスタートします!


Bonnie 'Prince' Billy & Bitchin Bajas Japan Tour 2016
ボニー・プリンス・ビリー&ビッチン・バハス ジャパン・ツアー2016

1026日(水)京都 アバンギルド075-212-1125
京都府京都市中京区木屋町三条下ル ニュー京都ビル3階
出演:ボニー・プリンス・ビリー、ビッチン・バハス、風の又サニー
開場 6:30pm/開演 7:30pm
料金 4,500円(予約)/5,000円(当日)*ドリンク代別
予約:会場詳細ページ

10
27日(木)金沢 アートグミ076-225-7780
石川県金沢市青草町88 北國銀行武蔵ヶ辻支店3
出演:ボニー・プリンス・ビリー&ビッチン・バハス、ASUNA quintetASUNA宇津弘基+黒田誠二郎+ショーキー+加藤りま
開場 7:00pm/開演 7:30pm
料金 3,500円(予約)/4,000円(当日)/2,500円(学割)
*学割:学生証など証明となるものをご持参ください。
予約:ao to ao詳細ページwindowofacloudyday@gmail.com

1028日(金)名古屋 KDハポン052-251-1324
愛知県名古屋市中区千代田5-12-7
出演:ボニー・プリンス・ビリー、ビッチン・バハス、Gofishトリオテライショウタ+黒田誠二郎+稲田誠
開場 6:30pm/開演 7:00pm
料金 4,500円(予約)/5,000円(当日)/3,500円(学割)*ドリンク代別
*学割:学生証など証明となるものをご持参ください。
予約:会場詳細ページ

1029日(土)東京 O-Nest03-3462-4420
東京都渋谷区円山町2-3 O-Westビル6
出演:ボニー・プリンス・ビリー、ビッチン・バハス、井手健介と母船墓場戯太郎清岡秀哉石坂智子+山本紗織+羽賀和貴岸田佳也
開場 6:30pm/開演 7:00pm
料金 5,000円(予約)/5,500円(当日)*ドリンク代別
チケット:会場チケットぴあPコード:307-809)、ローチケHMVLコード:77670)、e

1030日(日)東京 7th FLOOR03-3462-4466
東京都渋谷区円山町2-3 O-Westビル7
出演:ボニー・プリンス・ビリー&ビッチン・バハス、ダスティン・ウォング
開場 6:30pm/開演 7:00pm
料金 5,000円(予約)/5,500円(当日)*ドリンク代別
チケット:会場(店頭販売/電話予約)、e

企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
招聘:OURWORKS 合同会社


ボニー・プリンス・ビリー(Bonnie 'Prince' Billy):1993年にパレス・ブラザーズ名義のシングル「Ohio River Boat Song」(ドラッグ・シティ)でデビューした米ケンタッキー州ルイヴィル出身のシンガー・ソングライター。パレス・ブラザーズ、パレス・ソングス、パレス、パレス・ミュージック、本名のウィル・オールダムと作品ごとに名義を使い分けてどこかミステリアスな存在として登場したが、1998年からはボニー・プリンス・ビリーとしてネーミングを(ほぼ)統一、これまでに編集盤/共作盤を含めて30枚以上のアルバムをリリースしている。ビョークの全米ツアーのオープニングに起用され、ジョニー・キャッシュやマリアンヌ・フェイスフルら彼の曲をカバーする者、ボビー・ギレスピー(プライマル・スクリーム)、スチュワート・ブレイスウェイト(モグワイ)など彼に賞賛を送る者は枚挙にいとまがない。今やアメリカを代表するアーティストのひとりである。
 また、十代より俳優としても活動し、ジョン・セイルズの『メイトワン1920』(1987年)等に出演、ケリー・ライヒャルトの『Old Joy』(2006年)では主役を演じ、カニエ・ウエストのビデオ・クリップ「Can’t Tell Me Nothing」にも客演している。 最新アルバムはシカゴの3人組ビッチン・バハスとの共作盤『Epic Jammers and Fortunate Little Ditties』(ドラッグ・シティ/ディスクユニオン)、201610月に12年ぶりに来日する。



ビッチン・バハス(Bitchin Bajas): 2006年からシカゴで活動を始めたクラウト・ロック/サイケデリック・バンド、ケイヴのギター奏者、クーパー・クレインのソロ・プロジェクトとして2010年にスタートしたアンビエント/スペース・ロック・ユニット。その後、マージャン(Mahjongg)のダン・クイリヴァンと同じくケイヴからロブ・フライが参加してトリオ編成に。2013年のアルバム『Bitchitronics』からドラッグ・シティに移り、ナチュラル・インフォメーション・ソサエティとの『Automaginary』や、映像作家オリヴィア・ワイアットとの『Sailing a Sinking Sea』、ボニー・プリンス・ビリーとの『Epic Jammers and Fortunate Little Ditties』含め、計5枚のアルバムをリリースしている。

ボニー・プリンス・ビリー&ビッチン・バハス
『エピック・ジャマーズ・アンド・リトル・フォーチュネイト・ディッティーズ』
(Signs&Symptoms/ディスクユニオン)
9月21日発売

2016年3月に本国アメリカでドラッグ・シティからリリースされた共作アルバムも、今回のツアーに合わせてディスクユニオンより国内配給(輸入盤:帯・解説付き仕様)されることが決まりました!






2016/07/27

ハングルの『神様ごっこ』


 まだまだイ・ランについてのエントリーが続きます。どうぞおつき合いください。

 さて、7月に地元・韓国でリリースされた彼女のセカンド・アルバム『神様ごっこ』ですが、なんと発売から数週間でレーベル在庫が底を尽きたという嬉しいニュースが入りました。前作『ヨンヨンスン』も2,000枚以上のセールスを記録したようですから、となると今回の初回1,000部は在庫切れで当然なのかもしれません。でも、人口も(韓国の人口は約5千万人、日本の半分以下です)、そして自ずと音楽マーケットの大きさも日本とは格段に異なる隣国でそれだけ広く深い支持をイ・ランが受けていることは、とても頼もしく励まされる気持ちがしています。

 特に今回、読む者/聴く者を魅了した驚くべきは彼女の言葉の力だったに違いありません。韓国版で90ページを超える『神様ごっこ』のエッセイは、あいだに収録曲10曲の歌詞を織り込みながら、彼女のこれまでの歩みや家族、その人間観や世界観、創作の裏側や死と生への執着等々について深い、かつユーモラスな洞察に満たされます。この数週間、僕自身が何度も何度も何度も何度も原稿を読み返して校正を重ねてきましたが、その度に彼女の機転に救われ続けました。このいわば「小説版イ・ラン」のとんでもない面白さ、ぜひご期待いただければと心から願っています。

 と、ここで『神様ごっこ』の内容の一端を覗いてもらうために、カーリー・ソル頼もしいラフくんことキム・ハンソル氏に協力していただきながら、韓国版のプレスリリースを訳出してみました。エッセイからの抜粋も下に添えてありますので、どうぞ読んでみてください。なお、この韓国版プレスリリースは、どちらかというと『神様ごっこ』のシリアスな面、ペシミスティックな面を強く捉えていますが、もちろんそれだけではないことは、またあらためてご紹介できたらと思っています。引き続きどうぞお楽しみに。


 イ・ランはファースト・アルバム『ヨンヨンスン』を出したあと、誰にも予測できないようなレコードをつくろうと考えていた。弘大(ホンデ)に広がっている「ささやかな日常」のアコースティック音楽に反旗を翻し、哲学と死を語るレコードをつくりたかった。軽い時代に最も重いレコードを。なぜなら私たちの生活は重苦しく、死でぎっしりと埋まっているから。


 イ・ランにとってニュー・アルバムとなる『神様ごっこ』は、現在さまざまな分野で活躍中の最高の演奏者を迎え、イ・ランがいちばんくつろげる場所である雨乃日珈琲店でレコーディングされた。楽器を持って店に集まり、営業が終わってから明け方まで録音するのだ。普通のスタジオとは違い、リラックスできるので自然体となり、音響にも雨乃日珈琲店ならではの特性がにじみ出た。ひとりでMacBook を使って録音した『ヨンヨンスン』と違い、『神様ごっこ』はキム・ギョンモのプロデュースの下、最高のクオリティーを目指して制作された。チェロのイ・ヘジ、ドラムスのチョ・インチョル(404)、ベースのイ・デボン(ソリミュージアム)の3人を核として、特に締め切りを設けずに録音が続けられる。完成まで3年もかかったのはそのためだった。

 また、今回のアルバムは書籍の形をとっていて、付属するカードに記載されたパスワードでアルバム(全10 曲)をダウンロードする仕様でCD の発売は予定されていない(注:日本国内盤はCD 仕様)。かように、CD プレイヤーが不要となっている韓国の現状を考慮して、リリース形態も新しい試みとなった。エッセイの中でイ・ランは「死にたい」と口にする人を無視せず、「なぜ死にたいのか」と問うこと、 そして長い対話をする必要があることを書いている。しかし「死にたい」とこぼしてしまった人は覚えているはずだ。そういった話題には往々にして「そんな話はしちゃだめだよ」とか「苦しんでいるのはあなただけじゃない」というような返事が返ってくることを。

 人生を賛美する歌は誰もが好きだが、死についての歌は暗く、消費されてしまう。アイドルは爆発するような美貌とスタイルを誇りながら、輝くものについて歌う。一方、イ・ランは「輝くものは山ほどある/その中で本物を見極めるんだ」と歌うEXO(訳注:韓国と中国で活動する男性アイドル・グループ)の「Call Me Baby」を聴きながら、勇気をふりしぼって「死にたい」という言葉を発した人の長い夜を繰り返す。本当の気持ちを否定されても明日になったらまた偽物の光を輝かせ、生きることがすべてであるかのように賑やかな道へ踏み出していく彼ら。

 「死にたい」と口にするのは必死に生きるためなのに、そういう人に限って死んでいってしまう。死を知らないふりをする人は、あとからやってくる曖昧な罪悪感を忘れようとまた死を無視し続ける。そうやって我々は死んでいき、死についてなんの配慮も準備もないまま、お互いの死を相手にせず死に満ちた人生を生きていくのである。


『神様ごっこ』からの抜粋

 3年前、蘆原(ノウォン)区の小学5年生の子どもたちを対象に、作曲の授業をしたことがある。私の目標は、子どもたちと一緒に童謡をつくることだった。それまで私が考えていた童謡は「明るく朗らかでかわいい」もの。花が咲きトンボが飛び子どもが走りまわるようなものだった。

 でも、いざ授業がはじまってみると、子どもたちが聞かせてくれる話はまったく違うものだった。子どもたちは私に、生きるうえでのつらさや無気力、死について話した。死にたいのは山々だけど、ただ「生きてるから生きるだけ」と話す子どもさえいた。誰もに憎い友達がひとりはいて、したくないことは数え切れないほどあった。持ち物を利用して音を出すワークショップをしたとき、いきなり教科書で机を叩き出した子どもがいた。大きな音を出せば出すほど教科書がぼろぼろになって、その子は大きな喜びを感じているようだった。あとで知ったことだが、それはその子が最も嫌いな先生が教える科目の教科書だったらしい。

 その瞬間、私は悟った。やはり私も小学生のころ、花やトンボのことを考えながら一日を過ごしたわけではなかった。私は下校途中の道に落ちている何かの破片を拾い集めていて、その残りの欠片を持っている誰かが現われて、私をこの乞食みたいな日常から救ってくれることを願っていた。私の部屋の机の上に敷いた薄いガラスには、大人になったら殺したい人の名前が書いてあった。

 結局、私と子どもたちは、嫌いなものや疲労感、そして死についての曲をつくった。

2016/07/22

イ・ラン - 神様ごっこ


アーティスト:イ・ラン(이랑)
タイトル:神様ごっこ(신의 놀이)
カタログ番号:SDCD-031
発売日:2016年9月15日
収録曲数:10曲
パッケージ:縦型特製ボックス/64Pブックレット(歌詞対訳掲載)
ライナーノーツ:成田圭祐(イレギュラー・リズム・アサイラム
定価:¥2,400+税

ご予約受付開始まで今しばらくお待ちください。

2010年代、韓国ソウルのホンデ(弘大)シーンを象徴するシンガー・ソングライター
読み応えある長編エッセイを付属した日本独自仕様の深く美しい最新セカンド・アルバム。

 MacBook のGarageBand でみずから制作・録音した自作曲をそのまま収録したファースト・アルバム『ヨンヨンスン』で鮮烈なデビューを果たしてから4年、多くのファンが待ちわびたニュー・アルバムは、彼女の抱える葛藤や不安、日々の疑問を綴った長編エッセイと新曲10 曲を組み合わせた「読んで聴く」オーディオブック作品となりました。

 困難な人間関係や家族のこと、大人になる悲しみや仕事、別れや死について……彼女のペンは自身の生活や思考をありのままに描くことに躊躇することなく、それが、ときにあまりにも赤裸々で痛切に感じられもしますが、全体に漂うほろ苦いユーモアとペーソスで読者はまた著者の「生」へと向き合うこととなります。大なり小なり問題を抱える私たちにとって、きっと『神様ごっこ』は発想の転換やそのヒントを手渡してくれる大切な一冊となるでしょう。

 また、ホームレコーディング作品だった『ヨンヨンスン』から一転、今回はチェロ奏者のイ・ヘジ、ドラムスに404(サーコンサー)のチョ・インチョル、 さらにソリミュージアムのイ・デボンやソンキョルのキム・ギョンモら、手練のゲスト演奏家たちを迎え、精緻なアンサンブルに音楽家イ・ランの成長がはっきりと刻まれる力作となりました。

 冒頭の「神様ごっこ」で聴かれるポスト・クラシカル・フォークと言えそうな新機軸や、「悲しく腹が立つ」のようなアトモスフェリックなアンビエント・ポップまで、ぐんと幅と奥行きを広げたイ・ラン第2章をお楽しみください。
【付属長編エッセイより抜粋】
人生のさまざまな要素のうち、私は楽しさを最優先に生きてきた。愛に満ちた人生、幸せな人生がどんなものかはよく分からない。私にとっては、楽しい人生こそが最善の形らしい。でも、楽しい人生とは、いつも笑顔で踊り出さずにいられないようなものではないと思う。むしろ眉をひそめた表情に近いもののような気がしている。例えばこの文章を書いている私の表情みたいなものだ。考えたことを字で書き、また考え、煮詰まったら友達とおしゃべりして、再び考えを整理して書く。この文章の題名を考え、どんな挿絵をつけるか悩む。そうして完璧な1ページをつくり出す気分が「楽しい」のである。考えることが、それを話すことが、歌うことが、そして書くことが楽しいのだ。
イ・ラン(이랑):韓国ソウル生まれのマルチ・アーティスト。シンガー・ソングライター、映像作家、コミック作家と活動は多岐にわたる。2006年、アマチュア増幅器(ヤマガタ・トゥイークスター=ハンバのソロ・プロジェクト)の「金字塔」のカバーから音楽活動をスタート、日記代わりに録りためた自作曲が話題となり、ソモイム・レコーズと契約。2011年9月にシングル「よく知らないくせに」でデビュー。2012年春に初来日ツアーを実現させ、夏にアルバム『ヨンヨンスン』をリリース。韓国インディー・フォーク・シーンとびきりのニュー・タレントとして大きな注目を浴びる。2016年6月にはヘリコプター・レコーズから『新曲の部屋』コンピレーション、続けて4年ぶりとなる2枚目のオリジナル・アルバム『神様ごっこ』をリリースする。

1. 神様ごっこ
2. 家族を探して
3. 物語の中へ
4. 悲しく腹が立つ
5. 笑え、ユーモアに
6. 東京の友達
7. 平凡な人
8. 世界中の人々が私を憎みはじめた 
9. 私はなんで知っているのですか
10. 良い知らせ、悪い知らせ



イ・ラン - ヨンヨンスン


アーティスト:イ・ラン(이랑)
タイトル:ヨンヨンスン(욘욘슨)
カタログ番号:SDCD-030
発売日:2016年9月15日
収録曲数:13曲
パッケージ:A式紙ジャケット(シングル)/20Pブックレット(歌詞対訳掲載)
ライナーノーツ:柴田聡子
定価:¥2,000+税

ご予約受付開始まで今しばらくお待ちください。

2010年代、韓国ソウルのホンデ(弘大)シーンを象徴するシンガー・ソングライター
イ・ランの2012年作ファースト・アルバムが日本独自仕様でついにリリース決定

「イ・ランの感情に直に触れるのは、かなり幸せな時間のひとつです。(中略)光溢るる小部屋の中で、すっごいぷるぷるの球体にちょっと触ってみた感じ。ちょっと触っていいよって許された感じ。」 柴田聡子(ライナーノーツより抜粋)

2010 年代初頭、韓国ソウルの学生街ホンデを中心とする新しい自主独立音楽シーンの活況の中にあっても格別に大きな注目を浴びて登場したマルチ・アーティスト、イ・ランのファースト・アルバム『ヨンヨンスン』の新装パッケージ国内盤。

 GarageBand(Mac に標準装備されている音楽制作ソフト)で自作曲を制作、自身のウェブサイトに公開して話題を呼んだ楽曲を、あえて再録音することなく手づくりほぼそのままの形でパッキングした本作は、2012 年の夏にリリースされるやいなや韓国の有力ポータル・サイト「Daum.net」で「今月のアルバム」に選出され、さらに全国紙『ハンギョレ』の2012 年最優秀新人の第3位にノミネート、その後も『GQ』『NYLON』『Vogue Girl』『Harpers Bazaar』『Cosmopolitan』など数多くのファッション/カルチャー誌に取り上げられて、一躍、韓国インディ・フォーク/インディ・ポップとびきりの一枚として喝采を浴びることとなりました。

 また、奔放で屈託のない彼女のキャラクターとひねくれたユーモアは、柴田聡子王舟Alfred Beach Sandal黒岡まさひろホライズン山下宅配便)、加藤りま……これまでに度々来日して共演した面々はもちろん、時にヤマガタ・トゥイークスターのミステリアスなダンサーのひとりとしてステージやアジテーションに花を添えるなど、日本でも近年の韓国インディ・ファンを中心に早くから話題を呼びます。

 誰もが身に覚えのある感情やありふれた情景を入り口に、より大きな疑問や世界観を伝えられるのは彼女の天賦の才でしょうか。そして、その天才の鮮やかな第一歩はいつまでも輝きを失いません。その証左がこの『ヨンヨンスン』なのです。

イ・ラン(Lang Lee):韓国ソウル生まれのマルチ・アーティスト。シンガー・ソングライター、映像作家、コミック作家と活動は多岐にわたる。2006年、アマチュア増幅器(ヤマガタ・トゥイークスター=ハンバのソロ・プロジェクト)の「金字塔」のカバーから音楽活動をスタート、日記代わりに録りためた自作曲が話題となり、ソモイム・レコーズと契約。2011年9月にシングル「よく知らないくせに」でデビュー。2012年春に初来日ツアーを実現させ、夏にアルバム『ヨンヨンスン』をリリース。韓国インディー・フォーク・シーンとびきりのニュー・タレントとして大きな注目を浴びる。2016年6月にはヘリコプター・レコーズから『新曲の部屋』コンピレーション、続けて4年ぶりとなる2枚目のオリジナル・アルバム『神様ごっこ』をリリースする。

1. よく知らないくせに
2. 君のリズム
3. ハハハ
4. アヒルの足の木
5. 変なできごと
6. ラッキーアパート
7. ピイピイ
8. ヨンヨンスン
9. 食べたい
10. 卒業映画祭
11. 日記
12. プロペラ
13. 緑茶ください



2016/07/15

イ・ランのインタビュー(その1)

2012年の夏にリリースされたファースト・アルバム『ヨンヨンスン』

 韓国のインディー・ミュージックを英語で紹介する初めてのブログ「Indieful Rok」に掲載されていたイ・ランの記事の転載許可がおりたので、こちらで紹介しようと思います。ちょうど『ヨンヨンスン』リリース後すぐのタイミングでのインタビューで、短いものですが要領よく彼女の当時のいろいろな活動や創作態度がまとめられてあります。音楽と絵と映画、それぞれの違いについて唸らされ、また『ヨンヨンスン』リリースの裏側も少し覗くことができるかもしれません。今でもプロ意識が欠けているのは変わらないようですが(笑)、でも、人間関係と死という彼女の2大テーマは、この翌年から録音をはじめるセカンド・アルバム『神様ごっこ』でさらに追求されていくのでした。ともあれ、4年前の夏、若きイ・ランの言葉に耳を傾けてみましょう。

Reprinted with kind permission of the author, Anna from Indieful Rok
http://www.indiefulrok.com/2012/08/mini-interview-with-lang-lee/

2012年8月22日 アナ

イ・ランがソモイム・レコーズと契約したと知って以来、ユアマインド(編注:韓国ソウルのホンデ地区にある自主制作出版を扱う書店兼出版社)のコミックを読むなど(編注:ユアマインドのウェブサイトにイ・ランが寄稿していた連作漫画)、私はずっと彼女のことを追いかけていた。しかし、彼女の新作のニュースはなかなか届かない。ようやくこの夏、韓国で過ごした数週間の間、私はリリースされたばかりの彼女のファースト・アルバムを手に入れることができた。数日後、夫と私は旅行に出かける予定で、その間に聴こうとたくさんのCDを用意していたが、結局私たちは『ヨンヨンスン』ばかり何度も聴くことになった。一度聴いただけでそのアルバムは私のフェイバリットとなり、2度目に聴いたとき夫はこのアルバムはクラシック(名盤)になるだろうと宣言した。イ・ランについて、またアルバムができた背景について知りたくなり、私は質問を用意して彼女にアプローチすると、果たして彼女から、気前よくたっぷりとした答えが返ってきたのだった。

あなたはミュージシャンで、イラストも描いて(映画の)先生もされています。それぞれはご自分の中でどのようにつながっているんですか?
 私は音楽をつくって、イラストも描いています。また、短編映画を撮って最近では教えることもはじめました。最初はドローイングでした。それから曲をつくるようになり、さらに短い映像を撮っているうち、ひょんなことから人に教えるようになりました。
 絵を描くときに使うのは手と頭だけ、それは落ち着いた作業です。私が使うのは主に紙とペンとクレヨンです。コンピュータを使うこともあります。広いスペースは要りません。
 音楽をつくるときに使うのは頭と手と身体です。踊りながらつくることもあります。音楽をつくるにはひと部屋必要です。
 映画をつくるときに必要なのは身体全体と頭です。シナリオが完成したら、作業を進めるためにたくさんの人と会わなければなりません。行動範囲が大きく広がります。
 教えることはそれらとまったく異なっていて、クリエイティブなことでも生産的なことでもありませんが、コミュニティーになにかを「還元する」感覚をもたらしてくれます。
 教えることは別として、私にとってこれらの行為は「世界」をつくるためのものです。イラスト、音楽、映画を通して、私は自分が経験した世界を自分の解釈で再創造しました。本質的にはすべての目標は同じです。それぞれで自分の心をわざわざ分けることはしません。ただ、それぞれの活動をうまくやるために限られた時間を分けることはあります。
 自分の精力をもっとも注ぐのは映画づくりです。映画がいちばんわかりやすく自分が再創造した世界を人に見せられるフォーマットだからです。ほかの観客と隣り合わせに座って結果を楽しめる点も気に入っています。人前で音楽を演奏するとき私が魅了される点のひとつは、自分が観客のひとりとなって自分のライブを経験できないことです。
 絵を描き音楽をつくってきたことは、映画をつくる際にも大切な経験となりました。プリプロダクション、アートワークやストーリーボード、正しいアングル、正しい音響と色調、素敵なグラフィックをつくるとき、絵や音楽の経験は大いに役立ちます。それに自分の曲を自分の映画に使うこともできます。
 でも、すぐに気持ちを楽にしてくれたのは作曲でした。これら3つの活動のひとつをあきらめなければならなくなったら、まず絵をやめるでしょうね。手首に悪いので。

あなたの歌詞にはエキセントリックなところがありますね。ああいうインスピレーションはどこから湧き上がるんですか?
 夜、眠れないとき、私はベッドに寝転んで自分に話しかけます。ギターを手にとって、自分と話しながら適当なコードを鳴らします。何度も繰り返していると曲になり、散り散りの言葉が詩になります。
 多分、自分の人生にとっていちばん重要なテーマのふたつは人間関係と死です。どうしてうまく人間関係を築けないのか? 私はいつ死んでしまうのか? 答えが見つからないふたつの疑問です。特定の友達について考える曲もあります。本から得たインスピレーションをもとにした曲もあります。「ハハハ」はカート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』から、「ヨンヨンスン」は同じヴォネガットの『スローターハウス5』にインスパイアされました。

アルバム『ヨンヨンスン』制作の苦労について教えてもらえますか?
 私が音楽をつくるのは自分の精神的な難しさを和らげるためでした。だから音楽を仕事と感じたことはありませんし、仕事として考えたこともありません。
 私が曲を録音し始めたのは、自分がつくった曲を忘れないようにするためで、自分以外の幅広い人に聞かれることになるとは予想もしていませんでした。2008年以来ずっと同じ方法で録音しているのもそういうことです。
 私は2006年製のMacBookを使っていて、そのPCには内蔵マイクとGarageBand(編注:簡易な音楽制作ソフトウェア)がついていました。他の録音方法は何も知りません。ソモイム・レコーズとの初めてのミーティングで、彼らはこの録音方法のせいで私の音楽がオリジナルなものになったんだろうと思ったようです。だから彼らは新しくきれいに録り直すことを許してくれませんでした。
 正直、私には未だにプロ意識がありません。たぶん将来的にこれが障害になるでしょう。『ヨンヨンスン』をリリースしてから少しプレッシャーを感じるようになりました。最低限の練習もしていないし、何をするべきか考え込むようになりました。そして、そうやって考えること自体がストレスになってしまいました。

『ヨンヨンスン』の収録曲は新しいものでも2年前には書かれたものですが、今後のリリース予定はありますか?
 2008年から私は20曲ほどつくりました。ソモイム・レコーズの(キム・)ギョンモに曲を選んでもらって『ヨンヨンスン』ができました。曲順も彼が決めました。彼には厳格なルールがあって、全部が違う感じの曲なのもそのせいでしょう。また、最近録音した曲はこのアルバムには入っていません。彼はきっと初期の曲をまとめたかったのだろうと思います。アルバムに入りそうだなと思った最近の曲もありましたが、結局、採用されませんでした。
 私たちはまだ次のアルバムのことは話し合っていません。これからどうなるのかもわかりません。『ヨンヨンスン』に入っていなくてもライブで歌っている曲もあるし、いつか出したい曲もあります。どうにかして出せればよいのですが。
 さっき伝えたような方法で、私はまだ曲をつくっています。歳をとるにつれて歌詞も悲しいものが増えてきました。だから「緑茶ください」のようなウキウキした曲はもうつくれないのではないかと心配しています。