2016/07/27

ハングルの『神様ごっこ』


 まだまだイ・ランについてのエントリーが続きます。どうぞおつき合いください。

 さて、7月に地元・韓国でリリースされた彼女のセカンド・アルバム『神様ごっこ』ですが、なんと発売から数週間でレーベル在庫が底を尽きたという嬉しいニュースが入りました。前作『ヨンヨンスン』も2,000枚以上のセールスを記録したようですから、となると今回の初回1,000部は在庫切れで当然なのかもしれません。でも、人口も(韓国の人口は約5千万人、日本の半分以下です)、そして自ずと音楽マーケットの大きさも日本とは格段に異なる隣国でそれだけ広く深い支持をイ・ランが受けていることは、とても頼もしく励まされる気持ちがしています。

 特に今回、読む者/聴く者を魅了した驚くべきは彼女の言葉の力だったに違いありません。韓国版で90ページを超える『神様ごっこ』のエッセイは、あいだに収録曲10曲の歌詞を織り込みながら、彼女のこれまでの歩みや家族、その人間観や世界観、創作の裏側や死と生への執着等々について深い、かつユーモラスな洞察に満たされます。この数週間、僕自身が何度も何度も何度も何度も原稿を読み返して校正を重ねてきましたが、その度に彼女の機転に救われ続けました。このいわば「小説版イ・ラン」のとんでもない面白さ、ぜひご期待いただければと心から願っています。

 と、ここで『神様ごっこ』の内容の一端を覗いてもらうために、カーリー・ソル頼もしいラフくんことキム・ハンソル氏に協力していただきながら、韓国版のプレスリリースを訳出してみました。エッセイからの抜粋も下に添えてありますので、どうぞ読んでみてください。なお、この韓国版プレスリリースは、どちらかというと『神様ごっこ』のシリアスな面、ペシミスティックな面を強く捉えていますが、もちろんそれだけではないことは、またあらためてご紹介できたらと思っています。引き続きどうぞお楽しみに。


 イ・ランはファースト・アルバム『ヨンヨンスン』を出したあと、誰にも予測できないようなレコードをつくろうと考えていた。弘大(ホンデ)に広がっている「ささやかな日常」のアコースティック音楽に反旗を翻し、哲学と死を語るレコードをつくりたかった。軽い時代に最も重いレコードを。なぜなら私たちの生活は重苦しく、死でぎっしりと埋まっているから。


 イ・ランにとってニュー・アルバムとなる『神様ごっこ』は、現在さまざまな分野で活躍中の最高の演奏者を迎え、イ・ランがいちばんくつろげる場所である雨乃日珈琲店でレコーディングされた。楽器を持って店に集まり、営業が終わってから明け方まで録音するのだ。普通のスタジオとは違い、リラックスできるので自然体となり、音響にも雨乃日珈琲店ならではの特性がにじみ出た。ひとりでMacBook を使って録音した『ヨンヨンスン』と違い、『神様ごっこ』はキム・ギョンモのプロデュースの下、最高のクオリティーを目指して制作された。チェロのイ・ヘジ、ドラムスのチョ・インチョル(404)、ベースのイ・デボン(ソリミュージアム)の3人を核として、特に締め切りを設けずに録音が続けられる。完成まで3年もかかったのはそのためだった。

 また、今回のアルバムは書籍の形をとっていて、付属するカードに記載されたパスワードでアルバム(全10 曲)をダウンロードする仕様でCD の発売は予定されていない(注:日本国内盤はCD 仕様)。かように、CD プレイヤーが不要となっている韓国の現状を考慮して、リリース形態も新しい試みとなった。エッセイの中でイ・ランは「死にたい」と口にする人を無視せず、「なぜ死にたいのか」と問うこと、 そして長い対話をする必要があることを書いている。しかし「死にたい」とこぼしてしまった人は覚えているはずだ。そういった話題には往々にして「そんな話はしちゃだめだよ」とか「苦しんでいるのはあなただけじゃない」というような返事が返ってくることを。

 人生を賛美する歌は誰もが好きだが、死についての歌は暗く、消費されてしまう。アイドルは爆発するような美貌とスタイルを誇りながら、輝くものについて歌う。一方、イ・ランは「輝くものは山ほどある/その中で本物を見極めるんだ」と歌うEXO(訳注:韓国と中国で活動する男性アイドル・グループ)の「Call Me Baby」を聴きながら、勇気をふりしぼって「死にたい」という言葉を発した人の長い夜を繰り返す。本当の気持ちを否定されても明日になったらまた偽物の光を輝かせ、生きることがすべてであるかのように賑やかな道へ踏み出していく彼ら。

 「死にたい」と口にするのは必死に生きるためなのに、そういう人に限って死んでいってしまう。死を知らないふりをする人は、あとからやってくる曖昧な罪悪感を忘れようとまた死を無視し続ける。そうやって我々は死んでいき、死についてなんの配慮も準備もないまま、お互いの死を相手にせず死に満ちた人生を生きていくのである。


『神様ごっこ』からの抜粋

 3年前、蘆原(ノウォン)区の小学5年生の子どもたちを対象に、作曲の授業をしたことがある。私の目標は、子どもたちと一緒に童謡をつくることだった。それまで私が考えていた童謡は「明るく朗らかでかわいい」もの。花が咲きトンボが飛び子どもが走りまわるようなものだった。

 でも、いざ授業がはじまってみると、子どもたちが聞かせてくれる話はまったく違うものだった。子どもたちは私に、生きるうえでのつらさや無気力、死について話した。死にたいのは山々だけど、ただ「生きてるから生きるだけ」と話す子どもさえいた。誰もに憎い友達がひとりはいて、したくないことは数え切れないほどあった。持ち物を利用して音を出すワークショップをしたとき、いきなり教科書で机を叩き出した子どもがいた。大きな音を出せば出すほど教科書がぼろぼろになって、その子は大きな喜びを感じているようだった。あとで知ったことだが、それはその子が最も嫌いな先生が教える科目の教科書だったらしい。

 その瞬間、私は悟った。やはり私も小学生のころ、花やトンボのことを考えながら一日を過ごしたわけではなかった。私は下校途中の道に落ちている何かの破片を拾い集めていて、その残りの欠片を持っている誰かが現われて、私をこの乞食みたいな日常から救ってくれることを願っていた。私の部屋の机の上に敷いた薄いガラスには、大人になったら殺したい人の名前が書いてあった。

 結局、私と子どもたちは、嫌いなものや疲労感、そして死についての曲をつくった。

2016/07/22

イ・ラン - 神様ごっこ


*上の画像は韓国オリジナル盤のプロダクト写真となります。
日本国内盤はCD付きの異なる仕様となりますので、あらかじめご了承ください。

アーティスト:イ・ラン(이랑)
タイトル:神様ごっこ(신의 놀이)
カタログ番号:SDCD-031
発売日:2016年9月15日
収録曲数:10曲
パッケージ:DVD用縦型デジパック(ダブル)/64Pブックレット(歌詞対訳掲載)
ライナーノーツ:成田圭祐(イレギュラー・リズム・アサイラム
定価:¥2,400+税

ご予約受付開始まで今しばらくお待ちください。

2010年代、韓国ソウルのホンデ(弘大)シーンを象徴するシンガー・ソングライター
読み応えある長編エッセイを付属した日本独自仕様の深く美しい最新セカンド・アルバム。

 MacBook のGarageBand でみずから制作・録音した自作曲をそのまま収録したファースト・アルバム『ヨンヨンスン』で鮮烈なデビューを果たしてから4年、多くのファンが待ちわびたニュー・アルバムは、彼女の抱える葛藤や不安、日々の疑問を綴った長編エッセイと新曲10 曲を組み合わせた「読んで聴く」オーディオブック作品となりました。

 困難な人間関係や家族のこと、大人になる悲しみや仕事、別れや死について……彼女のペンは自身の生活や思考をありのままに描くことに躊躇することなく、それが、ときにあまりにも赤裸々で痛切に感じられもしますが、全体に漂うほろ苦いユーモアとペーソスで読者はまた著者の「生」へと向き合うこととなります。大なり小なり問題を抱える私たちにとって、きっと『神様ごっこ』は発想の転換やそのヒントを手渡してくれる大切な一冊となるでしょう。

 また、ホームレコーディング作品だった『ヨンヨンスン』から一転、今回はチェロ奏者のイ・ヘジ、ドラムスに404(サーコンサー)のチョ・インチョル、 さらにソリミュージアムのイ・デボンやソンキョルのキム・ギョンモら、手練のゲスト演奏家たちを迎え、精緻なアンサンブルに音楽家イ・ランの成長がはっきりと刻まれる力作となりました。

 冒頭の「神様ごっこ」で聴かれるポスト・クラシカル・フォークと言えそうな新機軸や、「悲しく腹が立つ」のようなアトモスフェリックなアンビエント・ポップまで、ぐんと幅と奥行きを広げたイ・ラン第2章をお楽しみください。


イ・ラン(이랑):韓国ソウル生まれのマルチ・アーティスト。シンガー・ソングライター、映像作家、コミック作家と活動は多岐にわたる。2006年、アマチュア増幅器(ヤマガタ・トゥイークスター=ハンバのソロ・プロジェクト)の「金字塔」のカバーから音楽活動をスタート、日記代わりに録りためた自作曲が話題となり、ソモイム・レコーズと契約。2011年9月にシングル「よく知らないくせに」でデビュー。2012年春に初来日ツアーを実現させ、夏にアルバム『ヨンヨンスン』をリリース。韓国インディー・フォーク・シーンとびきりのニュー・タレントとして大きな注目を浴びる。2016年6月にはヘリコプター・レコーズから『新曲の部屋』コンピレーション、続けて4年ぶりとなる2枚目のオリジナル・アルバム『神様ごっこ』をリリースする。



イ・ラン - ヨンヨンスン


アーティスト:イ・ラン(이랑)
タイトル:ヨンヨンスン(욘욘슨)
カタログ番号:SDCD-030
発売日:2016年9月15日
収録曲数:13曲
パッケージ:A式紙ジャケット(シングル)/20Pブックレット(歌詞対訳掲載)
ライナーノーツ:柴田聡子
定価:¥2,000+税

ご予約受付開始まで今しばらくお待ちください。

2010年代、韓国ソウルのホンデ(弘大)シーンを象徴するシンガー・ソングライター
イ・ランの2012年作ファースト・アルバムが日本独自仕様でついにリリース決定

「イ・ランの感情に直に触れるのは、かなり幸せな時間のひとつです。(中略)光溢るる小部屋の中で、すっごいぷるぷるの球体にちょっと触ってみた感じ。ちょっと触っていいよって許された感じ。」 柴田聡子(ライナーノーツより抜粋)

2010 年代初頭、韓国ソウルの学生街ホンデを中心とする新しい自主独立音楽シーンの活況の中にあっても格別に大きな注目を浴びて登場したマルチ・アーティスト、イ・ランのファースト・アルバム『ヨンヨンスン』の新装パッケージ国内盤。

 GarageBand(Mac に標準装備されている音楽制作ソフト)で自作曲を制作、自身のウェブサイトに公開して話題を呼んだ楽曲を、あえて再録音することなく手づくりほぼそのままの形でパッキングした本作は、2012 年の夏にリリースされるやいなや韓国の有力ポータル・サイト「Daum.net」で「今月のアルバム」に選出され、さらに全国紙『ハンギョレ』の2012 年最優秀新人の第3位にノミネート、その後も『GQ』『NYLON』『Vogue Girl』『Harpers Bazaar』『Cosmopolitan』など数多くのファッション/カルチャー誌に取り上げられて、一躍、韓国インディ・フォーク/インディ・ポップとびきりの一枚として喝采を浴びることとなりました。

 また、奔放で屈託のない彼女のキャラクターとひねくれたユーモアは、柴田聡子王舟Alfred Beach Sandal黒岡まさひろホライズン山下宅配便)、加藤りま……これまでに度々来日して共演した面々はもちろん、時にヤマガタ・トゥイークスターのミステリアスなダンサーのひとりとしてステージやアジテーションに花を添えるなど、日本でも近年の韓国インディ・ファンを中心に早くから話題を呼びます。

 誰もが身に覚えのある感情やありふれた情景を入り口に、より大きな疑問や世界観を伝えられるのは彼女の天賦の才でしょうか。そして、その天才の鮮やかな第一歩はいつまでも輝きを失いません。その証左がこの『ヨンヨンスン』なのです。

イ・ラン(Lang Lee):韓国ソウル生まれのマルチ・アーティスト。シンガー・ソングライター、映像作家、コミック作家と活動は多岐にわたる。2006年、アマチュア増幅器(ヤマガタ・トゥイークスター=ハンバのソロ・プロジェクト)の「金字塔」のカバーから音楽活動をスタート、日記代わりに録りためた自作曲が話題となり、ソモイム・レコーズと契約。2011年9月にシングル「よく知らないくせに」でデビュー。2012年春に初来日ツアーを実現させ、夏にアルバム『ヨンヨンスン』をリリース。韓国インディー・フォーク・シーンとびきりのニュー・タレントとして大きな注目を浴びる。2016年6月にはヘリコプター・レコーズから『新曲の部屋』コンピレーション、続けて4年ぶりとなる2枚目のオリジナル・アルバム『神様ごっこ』をリリースする。

1. よく知らないくせに
2. 君のリズム
3. ハハハ
4. アヒルの足の木
5. 変なできごと
6. ラッキーアパート
7. ピイピイ
8. ヨンヨンスン
9. 食べたい
10. 卒業映画祭
11. 日記
12. プロペラ
13. 緑茶ください



2016/07/15

イ・ランのインタビュー(その1)

2012年の夏にリリースされたファースト・アルバム『ヨンヨンスン』

 韓国のインディー・ミュージックを英語で紹介する初めてのブログ「Indieful Rok」に掲載されていたイ・ランの記事の転載許可がおりたので、こちらで紹介しようと思います。ちょうど『ヨンヨンスン』リリース後すぐのタイミングでのインタビューで、短いものですが要領よく彼女の当時のいろいろな活動や創作態度がまとめられてあります。音楽と絵と映画、それぞれの違いについて唸らされ、また『ヨンヨンスン』リリースの裏側も少し覗くことができるかもしれません。今でもプロ意識が欠けているのは変わらないようですが(笑)、でも、人間関係と死という彼女の2大テーマは、この翌年から録音をはじめるセカンド・アルバム『神様ごっこ』でさらに追求されていくのでした。ともあれ、4年前の夏、若きイ・ランの言葉に耳を傾けてみましょう。

Reprinted with kind permission of the author, Anna from Indieful Rok
http://www.indiefulrok.com/2012/08/mini-interview-with-lang-lee/

2012年8月22日 アナ

イ・ランがソモイム・レコーズと契約したと知って以来、ユアマインド(編注:韓国ソウルのホンデ地区にある自主制作出版を扱う書店兼出版社)のコミックを読むなど(編注:ユアマインドのウェブサイトにイ・ランが寄稿していた連作漫画)、私はずっと彼女のことを追いかけていた。しかし、彼女の新作のニュースはなかなか届かない。ようやくこの夏、韓国で過ごした数週間の間、私はリリースされたばかりの彼女のファースト・アルバムを手に入れることができた。数日後、夫と私は旅行に出かける予定で、その間に聴こうとたくさんのCDを用意していたが、結局私たちは『ヨンヨンスン』ばかり何度も聴くことになった。一度聴いただけでそのアルバムは私のフェイバリットとなり、2度目に聴いたとき夫はこのアルバムはクラシック(名盤)になるだろうと宣言した。イ・ランについて、またアルバムができた背景について知りたくなり、私は質問を用意して彼女にアプローチすると、果たして彼女から、気前よくたっぷりとした答えが返ってきたのだった。

あなたはミュージシャンで、イラストも描いて(映画の)先生もされています。それぞれはご自分の中でどのようにつながっているんですか?
 私は音楽をつくって、イラストも描いています。また、短編映画を撮って最近では教えることもはじめました。最初はドローイングでした。それから曲をつくるようになり、さらに短い映像を撮っているうち、ひょんなことから人に教えるようになりました。
 絵を描くときに使うのは手と頭だけ、それは落ち着いた作業です。私が使うのは主に紙とペンとクレヨンです。コンピュータを使うこともあります。広いスペースは要りません。
 音楽をつくるときに使うのは頭と手と身体です。踊りながらつくることもあります。音楽をつくるにはひと部屋必要です。
 映画をつくるときに必要なのは身体全体と頭です。シナリオが完成したら、作業を進めるためにたくさんの人と会わなければなりません。行動範囲が大きく広がります。
 教えることはそれらとまったく異なっていて、クリエイティブなことでも生産的なことでもありませんが、コミュニティーになにかを「還元する」感覚をもたらしてくれます。
 教えることは別として、私にとってこれらの行為は「世界」をつくるためのものです。イラスト、音楽、映画を通して、私は自分が経験した世界を自分の解釈で再創造しました。本質的にはすべての目標は同じです。それぞれで自分の心をわざわざ分けることはしません。ただ、それぞれの活動をうまくやるために限られた時間を分けることはあります。
 自分の精力をもっとも注ぐのは映画づくりです。映画がいちばんわかりやすく自分が再創造した世界を人に見せられるフォーマットだからです。ほかの観客と隣り合わせに座って結果を楽しめる点も気に入っています。人前で音楽を演奏するとき私が魅了される点のひとつは、自分が観客のひとりとなって自分のライブを経験できないことです。
 絵を描き音楽をつくってきたことは、映画をつくる際にも大切な経験となりました。プリプロダクション、アートワークやストーリーボード、正しいアングル、正しい音響と色調、素敵なグラフィックをつくるとき、絵や音楽の経験は大いに役立ちます。それに自分の曲を自分の映画に使うこともできます。
 でも、すぐに気持ちを楽にしてくれたのは作曲でした。これら3つの活動のひとつをあきらめなければならなくなったら、まず絵をやめるでしょうね。手首に悪いので。

あなたの歌詞にはエキセントリックなところがありますね。ああいうインスピレーションはどこから湧き上がるんですか?
 夜、眠れないとき、私はベッドに寝転んで自分に話しかけます。ギターを手にとって、自分と話しながら適当なコードを鳴らします。何度も繰り返していると曲になり、散り散りの言葉が詩になります。
 多分、自分の人生にとっていちばん重要なテーマのふたつは人間関係と死です。どうしてうまく人間関係を築けないのか? 私はいつ死んでしまうのか? 答えが見つからないふたつの疑問です。特定の友達について考える曲もあります。本から得たインスピレーションをもとにした曲もあります。「ハハハ」はカート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』から、「ヨンヨンスン」は同じヴォネガットの『スローターハウス5』にインスパイアされました。

アルバム『ヨンヨンスン』制作の苦労について教えてもらえますか?
 私が音楽をつくるのは自分の精神的な難しさを和らげるためでした。だから音楽を仕事と感じたことはありませんし、仕事として考えたこともありません。
 私が曲を録音し始めたのは、自分がつくった曲を忘れないようにするためで、自分以外の幅広い人に聞かれることになるとは予想もしていませんでした。2008年以来ずっと同じ方法で録音しているのもそういうことです。
 私は2006年製のMacBookを使っていて、そのPCには内蔵マイクとGarageBand(編注:簡易な音楽制作ソフトウェア)がついていました。他の録音方法は何も知りません。ソモイム・レコーズとの初めてのミーティングで、彼らはこの録音方法のせいで私の音楽がオリジナルなものになったんだろうと思ったようです。だから彼らは新しくきれいに録り直すことを許してくれませんでした。
 正直、私には未だにプロ意識がありません。たぶん将来的にこれが障害になるでしょう。『ヨンヨンスン』をリリースしてから少しプレッシャーを感じるようになりました。最低限の練習もしていないし、何をするべきか考え込むようになりました。そして、そうやって考えること自体がストレスになってしまいました。

『ヨンヨンスン』の収録曲は新しいものでも2年前には書かれたものですが、今後のリリース予定はありますか?
 2008年から私は20曲ほどつくりました。ソモイム・レコーズの(キム・)ギョンモに曲を選んでもらって『ヨンヨンスン』ができました。曲順も彼が決めました。彼には厳格なルールがあって、全部が違う感じの曲なのもそのせいでしょう。また、最近録音した曲はこのアルバムには入っていません。彼はきっと初期の曲をまとめたかったのだろうと思います。アルバムに入りそうだなと思った最近の曲もありましたが、結局、採用されませんでした。
 私たちはまだ次のアルバムのことは話し合っていません。これからどうなるのかもわかりません。『ヨンヨンスン』に入っていなくてもライブで歌っている曲もあるし、いつか出したい曲もあります。どうにかして出せればよいのですが。
 さっき伝えたような方法で、私はまだ曲をつくっています。歳をとるにつれて歌詞も悲しいものが増えてきました。だから「緑茶ください」のようなウキウキした曲はもうつくれないのではないかと心配しています。

2016/07/14

イ・ラン「新曲の部屋」コンピレーション


 下のエントリーでも少し触れましたが、イ・ランのセカンド・アルバム『神様ごっこ』のリリース前、この6月に開催されていた第6回ソウル・レコード・フェアに合わせてリリースされたイ・ランとその仲間たちによるコンピレーション・アルバム『新曲の部屋』をスウィート・ドリームス・プレス・ストアで7月14日の正午から販売します。噂によると既に発売元のヘリコプター・レコーズの在庫も早々に尽きてしまっているそう。スウィート・ドリームス・プレスで10セットだけ確保して熟成させていましたが、ちょうど彼女の新作『神様ごっこ』も韓国で無事にリリースされたようですので、このタイミングで発売することにしました。とはいえ、たったの10セットです。先着順となりますので、どうぞお早めにお買い求めください。

 ちなみにその内容ですが、もともとは東京のRojiというお店でホライズン山下宅配便黒岡まさひろさんが司会の仲原達彦氏とともに毎回ゲストを呼んで、その場で新曲制作〜新曲発表するというシリーズ・イベントがありまして、そのコンセプトをイ・ランが借り受けてソウルで同様のイベントを開催していたのでした。ちなみにソウル版の司会はリリース元のヘリコプター・レコーズを切り盛りするパク・ダハムくんです。

新曲の部屋(日本) http://newsongroom.tumblr.com/
新曲の部屋(韓国) http://newsongroomseoul.tumblr.com/

 そして、その12回の成果を収めたのが、この『新曲の部屋』コンピレーションです。先日ソウルに渡航したとき、会う人会う人「もうCDプレイヤーなんて誰も持っていないし、誰もCDを買わなくなった…」と嘆いていましたが、この作品もCDではなく(ましてやアナログ・レコードやカセットでもなく)、各回の様子をイ・ランお得意のイラストを絡めて紹介した葉書サイズのカードが12枚、そこにダウンロード(DL)コードを添えた仕立てとなっています。イ・ランの『神様ごっこ』も書籍+DLの形でしたし、そこには彼らならではの事情があるのでした。

 ちなみに参加アーティストは、以前、吉祥寺のキチムで開催された「イ・ランとキチム」にも出演していたキム・モクイン、ジーニアスというバンドもやっているキム・イルドゥ、日本でもおなじみのヤマガタ・トゥイークスターやフェギドン・タンピョンソン、そして本家「新曲の部屋」から黒岡まさひろ、さらにヨハン・エレクトリック・バッハ、ホン・シャイン、キム・オキ、キム・ウォンジュン、キララ、キム・サウォル……、アコースティックからラップ(?)、エレクトロ(?)、エレポップ(?)まで百花繚乱、「こんなの即興でつくったの?」と驚愕&イ・ランの即興力の高さにも悶絶必至かと思います。

 それではご注文は下記リンク先で、9月にリリースする『ヨンヨンスン』『神様ごっこ』ができるまでたっぷりとお楽しみいただければと思います。

http://sweetdreams.shop-pro.jp/?pid=104444467

2016/07/13

Skyway Man Special CD-R


 今年の2月に来日し、2度目のジャパン・ツアーを京都〜金沢〜松本〜東京と巡回、右手を鍵盤に左手をギターのネックに、右足は自家製足踏み箱に左足はエフェクターの上に、口の前に通常のボーカル・マイクと古ぼけた改造受話器マイクを並べ、せわしなく四肢を動かしながら顔を左右に振り、夢幻のゴスペル密林へとオーディエンスを導いていったジェイムス・ウォーレスあらためスカイウェイ・マン。

 さて、そのツアーにあわせて、2012年に米ダイアログ・レコードよりアナログLPとして限定リリースされた知られざる名盤『モア・ストレンジ・ニュース・フロム・アナザー・スター』をリイシューしたのですが、実は当初より購入者特典として未発表曲を収録したスペシャルCD-Rをつくろうとふたりで話し合っていたのでした。

 しかし、そのツアー後にジェイムスの父上が急逝されたり、彼の家庭の事情があったためしばらく保留状態に。見切り発車でリリースを先行せざるを得ないことになったのでした。スウィート・ドリームス・プレスと直接お取引いただいている小売店での発売が4月、さらに6月に一般流通も開始しましたが、幸い飛ぶように売れているとは言いがたく(笑)、というわけで、ちょっとおかしなタイミングになってしまいましたが、ようやく材料が揃ったそのギフトCD-Rを本日よりスウィート・ドリームス・プレス・ストアの購入者特典として配布することとしました。

 まだまだ、このスカイウェイ・マンのことを知らない、聴いたことがない方は多いことと思います。限定枚数ではありますが(50枚)、ぜひこの機会にお買い上げいただき、2枚のCDをお楽しみいただければと思います。

 そういえばそうこうしているうちに『モア・ストレンジ・ニュース』とよく引き合いに出されるポール・サイモンの新作アルバムもリリースされましたが、このナッシュビル流のハイブリッド・サイケデリアもなかなかのものなのです。この機会に、ぜひ聴いてみてください。ご注文は下記よりどうぞ。

イ・ランのイントロダクション


 さて、少し前からTwitterなどで報じてきましたが、韓国ソウルを拠点に活動するアーティスト、イ・ランのアルバムを2タイトル、この9月にスウィート・ドリームス・プレスからリリースすることになりました。イ・ランは彼女の本名で、漢字で書くと「李瀧」となるのだとか。姓名の順番は日本と同じです。「イ」が姓で「ラン」が名前。つまり親しみを込めて呼ぶならランちゃんでしょうか。英語だと「Lang Lee」と書きます。

 スウィート・ドリームス・プレスが彼女とどうやって知り合ったかについては、今年の2月にポストしたエントリー(こちら)をご覧ください。そこで、新作アルバム『神様ごっこ』の収録曲「世界中の人々が私を憎みはじめた」の心に強く強く残るミュージック・ビデオ(こちら)を紹介しています。今回のアルバムの鍵となるチェロ奏者とふたり、今回のアルバムの録音場所となったソウルの雨乃日珈琲店で撮影されたこの映像は、安易な言葉を寄せつけない傑作です。ぜひ、なんとか集中できる時間をつくって見ていただければと願います。

 ちなみに、実はその2月の時点で僕はソウルに行ったことがありませんでした。が、その後イ・ランの強い勧めもあり(「こちらのレーベルのシャチョーさんに会いに来てください!」)、6月の頭に数日間行ってみたのですが……。いやあ近いんですね。飛行機代も驚くほど安かったし、町も人も妙になじみます。こんなことならもっと早く行っておけばよかった。

 というわけで、その滞在中にイ・ランが所属するソモイム・レコーズのキム・ギョンモさん(ソンキョルっていうバンドをやってるハンサムさん)と会って正式にライセンスの契約を取り決めることができ、ようやくイ・ランの、韓国式に言えば第1集となる『ヨンヨンスン』と第2集の『神様ごっこ』をスウィート・ドリームス・プレスからリリースする手はずとなりました。にしても平壌式冷麺とサムギョプサル、サムゲタンにカルグクスとマンドゥ、マッコリ、焼酎…あぁ。

 とうつつを抜かしている間にも「イ・ランって誰?」という方も多いと思いますので、下に彼女のバイオグラフィーをまとめてみました。これから各作品の紹介を始め、イ・ランのインタビュー記事や、イ・ランと交流のある日韓さまざまな人たちのコメントなど、折を見て紹介していけたらと思っています。9月のリリース、そして、多分その後にやってくるだろうイ・ラン本人のジャパン・ツアーまで、どうぞ末永くおつきあいください。そしてどうぞ彼女の作品と本物の彼女をお楽しみに。イ・ランはいつだって最高なんです。

デビュー・シングル「よく知らないくせに」は
ソモイム・レコーズとPDHレコーズの共同で2011年にリリースされました。

「イ・ランはとてもミステリアスなの。どんなアブノーマルな方法でも、彼女に限ってはうまくいく。作曲しているところを見てたんだけど、そのとき彼女は何度か歌ってたった30分で1曲仕上げてた。もちろん仕上がりも素晴らしくて、そのとき思ったの。「この子何者?」って(笑)」(ユ・ヘミ)

 イ・ランはミュージシャン/シンガー・ソングライター、映画監督でシナリオを書き、これまでに2冊のコミックを上梓した漫画家としても知られています。生まれも育ちも韓国ソウル、子どものころからアーティストになるのが夢で、17歳にして『PAPER』というカルチャー誌に4コマ漫画の連載を始めてしまうような早熟な女の子でした。高校を中退後、ひょんなことから韓国芸術総合学校映像院に進学、そこで彼女は『ペパーミント・キャンディー』を撮った憧れの映画監督イ・チャンドンの教えを受け、そして今ではれっきとしたマルチ・アーティストとして生活しています。
 彼女の音楽活動は2006年、アマチュア増幅器ヤマガタ・トゥイークスター=ハンバのソロ・ユニット)の曲「金字塔」のカバーから始まります。そうして、日記代わりにMacBookのGarageBandで録りためた楽曲を自身のウェブサイトで公開しはじめるとたちまち話題を呼び、友人からそれらの曲をアルバムにまとめることを勧められます。その友達にはパク・ダハム(自身の音楽活動やイベントのオーガナイズのかたわらヘリコプター・レコーズというインディペンデント・レーベルを運営し、日本と韓国の音楽シーンに大きな架け橋を渡す重要人物)という若者もいました。
 彼の奔走が実を結んだのか、いくつか取りつけたオファーの中からイ・ランはソモイム・レコーズを選び、契約します。ちなみにそのレーベルはソンキョルというユニークなシューゲイザー〜フォークトロニカ・ユニットで活動するキム・ギョンモの個人レーベルとして知られていました。
 まず2011年9月にデビュー・シングル「よく知らないくせに」がソモイム・レコーズとパク・ダハムのPDHレコーズの共同でリリースされ、翌年の春にはパク・ダハム、Dydsuと初来日、東京、松本、金沢と公演数こそ多くはなかったものの、各地、盛況のうちにジャパン・ツアーを終えます。
 そして、2012年の夏に待望のファースト・アルバム『ヨンヨンスン』がソモイム・レコーズからリリースされると、韓国の有力ポータル・サイト「Daum.net」は「今月のアルバム」に選出、さらに彼女は全国紙『ハンギョレ』の「2012年最優秀新人」の第3位にノミネートされます。こうして、イ・ランは韓国インディー・フォーク・シーンとびきりのニュー・タレントとして大きな注目を集め、喝采をもって迎えられたのでした。

 その後も、彼女の音楽と姿勢は大きな共感を呼び、彼女は『GQ』『Nylon』『Vogue Girl』『Elle』『Harper’s Bazaar』『Cosmopolitan』など多くのファッション/カルチャー誌や現地メディアで取り上げられるようになりました。そして、たびたび来日しては、自身のソロ・パフォーマンスだけでなく、ヤマガタ・トゥイークスターのミステリアスなダンサーのひとりとしてステージや路上で踊る姿も披露。また、新宿のインフォ・ショップのソファで悠々とタバコをふかし、『アメト−−−ク!』の観覧席で笑っているところもたびたび目撃されています。

2011年、初めてのジャパン・ツアーの金沢公演のフライヤー

「普通は誰もが手本となる音楽があるものだけど、イ・ランにはそれがない。音楽のスタート地点からして違うんだ。そこが彼女の音楽の魅力だと思う。いろんな人が彼女の音楽をいろんな角度から語るのも、それが理由じゃないかな」(チョ・インチョル)

 2016年は彼女にとって多忙な1年となりました。6月にはパク・ダハムが主宰するヘリコプター・レコーズから『新曲の部屋』コンピレーション・アルバム(絵ハガキ・セット+ダウンロード・コード|明日7月14日の正午より10枚だけスウィート・ドリームス・プレス・ストアで販売します。お早めにどうぞ!)を第6回ソウル・レコード・フェアに合わせて緊急リリース。なお「新曲の部屋」はもともと、ホライズン山下宅配便黒岡まさひろ仲原達彦を司会に毎回ゲストを呼び寄せてその場で1曲つくって披露するというシリーズ・イベントでしたが、そのコンセプトを借り受け、イ・ランがその韓国ソウル・バージョンを開催していたのでした(そのゲストのひとりとして本家、黒岡まさひろも出演しています)。
 また、7月には『ヨンヨンスン』から4年ぶりとなる待望のニュー・アルバム『神様ごっこ』(書籍+ダウンロード・コード)がソモイム・レコーズとユアマインド(ソウルのホンデ地区で人気の書店/リトル・プレス)の共同で発表されます。イ・ランの日々の様子や思い出、抱えている問題や創作についてのあれこれを赤裸々に、時折ユーモアを交えて綴られたエッセイは90ページを超え、その韓国オリジナル版は黒い布張りの表紙にタイトルと作者名が活版で押された美しい装丁で発表されます。さらに『ヨンヨンスン』のアコースティック・ポップ路線から一転、曲によってチェロ奏者を迎えた静謐で内省的な作風が強い印象を残す新境地の10曲も含めて、彼女のアーティストとしての葛藤と成長は、読む者、聴く者の胸を締めつけるに違いありません。

 さらに、今秋、日本でもようやく上記2枚のオリジナル・アルバム(『ヨンヨンスン』と『神様ごっこ』)がスウィート・ドリームス・プレスよりそれぞれCD作品として新装リリースされることとなりました。きっと、リリース後に来日ツアーも発表されるでしょう。
 彼女の本当、彼女の本当の嘘、彼女の嘘の本当、気づきやひらめきに満ちたユーモア、飼い猫のジュンイチ、韓国ソウルのおかしなところとおかしな友達、日本と日本の友達のこと、そして、イ・ランと私たち自身のおかしさや悲しみを『ヨンヨンスン』と『神様ごっこ』から受け取っていただければ幸いです。
 ちなみに『ヨンヨンスン』は柴田聡子、『神様ごっこ』は成田圭佑(イレギュラー・リズム・アサイラム)、彼女と親交の深いふたりの文章をライナーノーツとして掲載しています。こちらもどうぞご期待ください。

イ・ランのセカンド・アルバム『神様ごっこ』の韓国オリジナル・バージョンは
本日リリースされる予定です。

2016/07/11

ジュヌヴィエーヴ・カストレイ


 5月の終わりごろ、もうすぐ邦訳が発行される『少女ゴーグル(原題 Susceptible)』のあとがきを発行元のプレスポップに依頼されて書いていると、その数日後、夫のフィル・エルヴラム(マウント・イアリ)の呼びかけでジュヌヴィエーヴ・カストレイ(エルヴラム)の闘病と家計を支えるための募金がはじまりました。その経緯などについてはこちらのポストで案内しましたが、彼女は昨年の春にステージ4にある膵臓癌であることがわかり、それ以来ずっと闘病を続けていたのでした。
 その間、彼女が病気だということは公にされることなく、彼女と親交のある人たちにときどきフィルからその様子を知らせるメールが届きました。そして、ごく稀に本人からメールが来ることもあって、ハワイに家族で旅行したことなどが書いてあり、愛娘アガットちゃんの写真が添付されていました。また、自分のコミック『Susceptible』が邦訳されることを彼女はとても喜んでいました。
 つい先日も日本で彼女と関わりの多かった人たちに声をかけて一緒にプレゼントを送って、そのお礼のメールが彼女から届いたのが6月25日のことでした。彼女が欲しがっていたネオン色のカラフルなスカーフ。そのメールには美しいスカーフを首に巻いた自分の写真が添えられていました。
 結局、彼女とのやりとりはそれが最後となり、7月9日の午後1時にジュヌヴィエーヴ・カストレイは旅立ってしまいました。フィルから送られてきた知らせによると、この1年間、いろいろな治療方法を試してきたこと、化学療法が功を奏することはなく、最終的にはホスピスへ移ることを勧められるような状態だったことが書かれています。穏やかな精神状態でいることが彼女にとっては何よりも大事だったようで、しかし、その内側で彼女が猛烈に死に抗っていたことも添えてありました。

「今日の朝、彼女の両親もこの家にいました。不安を静め、呼吸困難を抑えようと徹夜で看病し、彼女をなだめていました。彼女の両肺は癌の炎症にひどく侵されていました。彼女はハックルベリーのホットケーキが食べたいとリクエストし、僕が用意しましたが、結局、息切れと咳が続く中で三口ほどしか食べられませんでした。ホスピスの看護士がやってきて、ようやく彼女に精神安定剤と鎮痛剤を与えることができました。すみやかな最期でした。数時間のうちに目から力が抜け、虚ろになっていきました。彼女の両親と僕は同じ部屋にいて、彼女の手を握っていました。やがて彼女は良い体勢を見つけ、そして呼吸が遅くなっていきました。そんな不安定な状態でも、彼女が少しでも苦痛から解放されていたらと願います。最期はあっけないものでした。呼吸がだんだんと遅くなり、ついに最期の一息になるのを私たちは見ていました」

 彼女を追悼して、アナコーテス・ミュージック・チャンネルではジュヌヴィエーヴがウォーヴ(Woelv)やオ・パン(Ô PAON)といった名義でこれまでに発表してきた楽曲、彼女が参加した他アーティストの作品などを1週間24時間に渡って流しています。下記リンク先でストリーミング再生できますので、彼女の音楽をこれまで聴いたことがない方もぜひ聴いてみてください。

http://anacortesmusicchannel.com/tune-in/

 また、上記したように彼女のコミック・ブック『Susceptible』が『少女ゴーグル』としてプレスポップより7月末に発行されます。すでに予約受付も始まっていますので、ご興味のある方はどうぞ。カナダ、ケベック州で過ごしたジュヌヴィエーヴの前半生を描いた作品です。決して幸せいっぱいとは言えない彼女の子供時代ですが、だからこそきっと多くの読者の共感を得るだろう力強さがあります。ぜひご一読ください。

http://www.presspop.com/jp/item/3638/

 なお、彼女の作品はこれまでカナダのロワドゥカヴァン(L’Oie de Cravan)とオルタナティブ・コミック・ファンにおなじみのドロウン&クオータリー(Drawn & Quarterly)から出版されてきました。遺作となったのは『Maman Sauvage』という仏語の詩集で、愛娘アガットちゃんがお腹の中にいる数ヶ月間のことを書かれたものだそうです。これは昨年の11月に発行されています。

 今からでもぜひ、生前に彼女がつくった絵やコミック、音楽に触れてください。彼女の作品のほとんどは、日本からでも容易に入手できるはずです。

 彼女から届いた最後のメールの件名には「I am so lucky!」とありました。僕たちも彼女と知り合えたこと、つかの間でも彼女の活動をサポートでき、特別な信頼関係を築けたことをとても幸運だったと感じています。願わくはもっと一緒にいたかったのですが、残念ながらそれは叶わぬ夢となってしまいました。長い闘病でつらく苦しかったことと思います。どうぞ安らかに。そしてご家族の皆さまには心よりお悔やみ申し上げます。

2016/06/08

YTAMO:MI WO chan no TABI


 リリース以来、YTAMOのアルバム『MI WO』をよく聴いている。柵を越えて外に出て行く音の群れ、抱えようとしてもふわふわと捕まえきれない光る音。いろんな音が自律的に思い思いに動いているようで、これは、どこにもない戸外の音楽だなぁと梅雨の晴れ間を見上げて思う。思えば世界ってそんなものだ。
 聞けば、この『MI WO』も、先日リリースした松井一平、元山ツトムとの共作盤『don't light up the dark』と同じく、あるアーティストの展示のためにつくられた音楽だという。ちなみにこちらのジャケットのアートワークも松井一平によるもの。自然の風物をキュビスムの方法で表現したような不思議な絵を見ながら、ぜひ『don't light up the dark』と一緒に聴いてみることをおすすめします。
 そういえば、彼女の11年前のファースト・アルバム『Limited Leaf』をあらためて聴いてみると「よっ」とか「ほっ」とか楽しい掛け声が出てきて、そんな呼びかけはレイチェル・ダッドの『We Resonate』や、嶺川貴子とダスティン・ウォングの『Savage Imagination』、コルネリの『かいづか』等々にもあったような気がするし、ひいてはASUNAがライブ・パフォーマンス後半のピークでマイクを両手で包みながらスマーフ男組みたいなチップマンク声でビュービュー叫ぶ姿も連想してしまった。さらには遠くの砂漠からベルベル族の大きな叫び声がかぶさってきて……。
 きっと彼女ら彼らにはどこか共通する気風、さらに言えば、ある種の特別な念じ方みたいなものがあるのかもしれない。サイケデリックというよりはサイキック、不安定だけれど倒れない積み木は美しい。というわけで以下の日程で『MI WO』のツアーが始まるので、それを早速確かめに行ってこようと思います。

ココノネ空間 vol.2
6月18日(土)大阪 アオツキ書房
出演:YTAMO、嶺川貴子Yabemilk
DJ&音響:青柳亮(HORA AUDIO
開場 6:30pm/開演 7:30pm
料金 2,300円(予約)/2,800円(当日)

ココノネ空間 vol.2
6月19日(日)彦根 horaana
出演:YTAMO、嶺川貴子オオルタイチ
DJ&音響:青柳亮(HORA AUDIO
開場 2:00pm/開演 3:00pm
料金 2,000円(予約)/2,300円(当日)*ドリンク代別

YTAMO MI WO chan no TABI
6月21日(火)東京 七針
出演:YTAMO × 松井一平(ドローイング)、嶺川貴子&Dustin Wongトンチ × オオルタイチ
開場 7:00pm/開演 7:30pm
料金 2,500円(予約)/2,800円(当日)



YTAMO(うたも):荒木良子のソロユニット。クラシック・ピアノの世界を経てジャンル問わず2000年頃より活動開始。数枚の自主制作アルバム、2006年に「scilli disques」よりファースト・ソロ・アルバム『Limited Leaf』を発表。レゲエ・シンガー、カルカヤマコトのサポート・ミュージシャンとして活動後、自身のバンド「ウリチパン郡」のメンバーとして2011年まで活動(現在活動休止中)。2011年、オオルタイチとのユニット「オオルタイチ+ウタモ」として、キセルと共に東北ツアーを行う。この時、被災地へのチャリティとして共作「ともしび」を会場限定発売。同時にoorutaichi+ytamo「ihati ep」を発売。 2012年、フェリシティよりリリースされたOOiOOのドラマーであるOLAibiのサード・ アルバム『new rain』のレコーディング及びツアーメンバーとして参加。2015年、キセルのサポート・メンバーとしてライブに参加。現在はソロの他にオオルタイチとのユニット「ゆうき」としても活動。2016年3月にオーストラリアのルーム40/サムワン・グッド(国内盤はYACCA)より待望のセカンド・アルバム『MI WO』をリリース。さらに、松井一平、元山ツトムとの共作で、5月にアルバム『don’t light up the dark』をスウィート・ドリームス・プレスよりリリースしている。

2016/06/07

てぬぐい+mangneng と 川手直人


 こちらでアナウンスされましたが、今までなんどもなんども小さな演奏会を催させていただいた立川、砂川七番のギャラリー・セプチマが7月いっぱいで幕を閉じることとなりました。これもまたジェントリフィケーションのひとつと言うんでしょうか、でも、理由はともかくとして運営されてこられた波田野くんご夫妻には感謝の言葉しかありません。どうもお疲れさまでした。

 というわけで、というわけでもないのですが、久しぶりにギャラリー・セプチマでライブを催します。4月に「わらえないうそ わらっちゃうほんとう」という4曲入り7インチ・シングルをリリースした「てぬぐい」と(もちろんmangnengさんのスティール・パンもご一緒です)、昨年『デモデモデ』という奇なるCDアルバムをリリースされた川手直人さんが久しぶりに京都から上京(ちなみに今回予定されているのはこのライブだけ、お見逃しなくですよファンの方!)。どちらもたっぷりと演奏時間を設けつつ、その幕間はノアルイズ・マーロン・タイツのノコギリ奏者、森田文哉くんのDJをお楽しみください(彼が店主のレコード店、TURN ONの出店もあります)。さらに音響は、井手健介と母船のメンバーとしてもおなじみ、ティアドロップ型のサングラスが西東京No.1似合うスナイパー! ……もといギター奏者の清岡秀哉さんにお願いできることになりました。また、出演者それぞれとの縁も深い(てぬぐいの伊藤啄矢さんがギターの先生をしていたり)目白のブックギャラリー・ポポタムより大林えりこ店主もあれこれもって駆けつけてきてくれることに。

 せっかくなので久しぶりに外のウッドデッキで鉄板焼きも? たぶん梅雨明け前ではありますが、結果オーライでゆっくりのんびり過ごしていただければと思っていますので、ぜひ皆さまお越しください。夜に用事のある方も17時過ぎには終演の予定ですしご心配なく。いつものセプチマのイベント、砂川七番の夕方にお待ちしています。

6月26日(日)立川・砂川七番 ギャラリー・セプチマ
東京都立川市柏町 3-8-2
出演:てぬぐいmangneng川手直人
DJ:森田文哉(Noahlewis' Mahlon Taits
PA:清岡秀哉
出店:TURN ON(レコード、CD)、ブックギャラリー・ポポタム(本、雑貨)
開場 2:30pm/開演 3:00pm
料金 1,800円(予約)/2,000円(当日)
予約:スウィート・ドリームス・プレス(info.sweetdreams@gmail.com)、ギャラリー・セプチマ(galleryseptima@gmail.com
フライヤー・イメージ:mississippi